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調音の場所による子音の分類【語学を楽しむための音声学】

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肺から出た気流が調音器官で妨げられて、大部分の子音の音声が作られます。気流が声門を通るときには、声を伴うことがあります。調音音声学的に子音を分類するには、2つの基準があります。そのうちの1つ、調音の場所による子音の分類を説明します。

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調音の場所とは

口腔内の調音器官には、上側に位置する上位調音器官と、下側に位置する下位調音器官があります。子音の大部分は、下位調音器官が、上位調音器官に接近・接触して調音されます。子音が調音されるときに気流が妨げられる場所を調音の場所(ちょうおんのばしょ)といいます。

調音器官については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

≫ いろいろな音声を作り出す調音器官と音声器官

上側と下側のどの調音器官を使うかによって、子音は次の13種類に分類できます。

  • 両唇音、唇歯音、歯音、歯茎音、後部歯茎音、そり舌音、歯茎硬口蓋音、硬口蓋音、軟口蓋音、口蓋垂音、咽頭音、喉頭蓋音、声門音

これらを大きく4つのグループに分けて、順に説明します。以下の説明で、[ ] の中に示したのは国際音声記号(IPA)で表した記号です。

唇が関わる子音

調音の場所による子音の分類(唇が関わる子音)
子音両唇音唇歯音
上位調音器官上唇上歯
下位調音器官下唇

両唇音

両唇音(りょうしんおん)は、上唇と下唇を接近・接触させて調音する子音です。

両唇破裂音 [p][b]、両唇鼻音 [m]、両唇ふるえ音 [ʙ]、両唇摩擦音 [ɸ][β] などがあります。

唇歯音

唇歯音(しんしおん)は、下唇を上歯に接近・接触させて調音する子音です。

唇歯鼻音 [ɱ]、唇歯はじき音 [ⱱ]、唇歯摩擦音 [f][v]、唇歯接近音 [ʋ]などがあります。

舌尖や舌端が関わる子音

調音の場所による子音の分類(舌尖や舌端が関わる子音)
子音歯音歯茎音後部歯茎音そり舌音歯茎硬口蓋音
上位調音器官上歯歯茎後部歯茎歯茎硬口蓋
下位調音器官舌尖や舌端舌端舌尖舌端

歯音

歯音(しおん)は、舌尖や舌端を上歯の裏に接近・接触させて調音する子音です。歯音の変種として、上下の歯の間に舌先を挟む歯間音(しかんおん)があって、IPAでは同じ記号で表します。

歯摩擦音 [θ][ð] などがあります。

歯茎音

歯茎音(しけいおん)は、基本的には舌端を歯茎に接近・接触させて調音する子音です。

歯茎破裂音 [t][d]、歯茎鼻音 [n]、歯茎ふるえ音 [r]、歯茎たたき音 [ɾ]、歯茎摩擦音 [s][z]、歯茎接近音 [ɹ]、歯茎側面摩擦音 [ɬ][ɮ]、歯茎側面接近音 [l]、歯茎側面はじき音 [ɺ] などがあります。

歯茎破裂音にはバリエーションも多くあります。舌尖で調音する場合もあり、その場合は舌尖音を [t̺]、舌端音を [t̻] のように区別して表すことができます。また、調音の場所が、前寄りで歯音に近い場合は [t̪]、後ろ寄りで後部歯茎音に近い場合は [t̠] のように区別して表すことができます。[ ̠] は、調音の場所が後退していることを表します。

後部歯茎音

後部歯茎音(こうぶしけいおん)は、舌端を後部歯茎に接近・接触させて調音する子音です。

後部歯茎摩擦音 [ʃ][ʒ] などがあります。

そり舌音

そり舌音(そりじたおん)は、舌尖を後部歯茎に接近・接触させて調音する子音です。舌端の裏を後部歯茎に接近・接触させる場合もあります。舌尖を後部歯茎まで近づけるためには、舌が反り返る必要があります。また、この子音だけ、調音の場所ではなく、舌の形状が子音の名前になっています。

そり舌破裂音 [ʈ][ɖ]、そり舌鼻音 [ɳ]、そり舌はじき音 [ɽ]、そり舌摩擦音 [ʂ][ʐ]、そり舌接近音 [ɻ]、そり舌側面接近音 [ɭ] などがあります。

歯茎硬口蓋音

歯茎硬口蓋音(しけいこうこうがいおん)は、舌端を歯茎硬口蓋に接近・接触させて調音する子音です。

歯茎硬口蓋摩擦音 [ɕ][ʑ] などがあります。

前舌や後舌、舌根が関わる子音

調音の場所による子音の分類(前舌や後舌、舌根が関わる子音)
子音硬口蓋音軟口蓋音口蓋垂音咽頭音
上位調音器官硬口蓋軟口蓋口蓋垂咽頭壁
下位調音器官前舌後舌舌根

硬口蓋音

硬口蓋音(こうこうがいおん)は、前舌を硬口蓋に接近・接触させて調音する子音です。

硬口蓋破裂音 [c][ɟ]、硬口蓋鼻音 [ɲ]、硬口蓋摩擦音 [ç][ʝ]、硬口蓋接近音 [j]、硬口蓋側面接近音 [ʎ] などがあります。

軟口蓋音

軟口蓋音(なんこうがいおん)は、後舌を軟口蓋に接近・接触させて調音する子音です。

軟口蓋破裂音 [k][ɡ]、軟口蓋鼻音 [ŋ]、軟口蓋摩擦音 [x][ɣ]、軟口蓋接近音 [ɰ]、軟口蓋側面接近音 [ʟ] などがあります。

口蓋垂音

口蓋垂音(こうがいすいおん)は、後舌を口蓋垂に接近・接触させて調音する子音です。

口蓋垂破裂音 [q][ɢ]、口蓋垂鼻音 [ɴ]、口蓋垂ふるえ音 [ʁ]、口蓋垂摩擦音 [χ][ʁ] などがあります。

咽頭音

咽頭音(いんとうおん)は、舌根を咽頭壁に接近・接触させて調音する子音です。

咽頭摩擦音 [ħ][ʕ] などがあります。

喉頭が関わる子音

調音の場所による子音の分類(喉頭蓋や声門が関わる子音)
子音喉頭蓋音声門音
上位調音器官咽頭壁 
下位調音器官喉頭蓋声帯と声帯

喉頭蓋音

喉頭蓋音(こうとうがいおん)は、喉頭蓋を咽頭壁下部に接近・接触させて調音する子音です。喉頭蓋破裂音は、生理的に声帯の振動を伴わず有声音になりにくいため、IPAの記号では有声と無声を区別していません。

喉頭蓋破裂音 [ʡ]、喉頭蓋摩擦音 [ʜ][ʢ] などがあります。

声門音

声門音(せいもんおん)は、2本の声帯どうしを接近・接触させて調音する子音です。声門破裂音は、声帯が閉じて声門が閉鎖されますが、この状態は、声門が広く開いた無声の状態ではなく、声門の隙間が少しだけ開いて声帯が振動する有声の状態でもありません。ですから無声音でも有声音でもありませんが、IPAの表では、無声音として書かれています。また、声門摩擦音は、声門の隙間が少し開いて摩擦が発生しますが、有声音の場合は同時に発声も行ないます。このように声門音は、発声と調音の両方に関係するため、特殊な音といえます。

声門破裂音 [ʔ]、声門摩擦音 [h][ɦ] などがあります。

その他の子音

二重調音の子音

多くの言語に表われる子音の中で、13個の子音の分類に含めなかった子音があります。両唇軟口蓋接近音 [w] のように、2か所の調音器官で同時に調音する子音です。このような二重調音の子音については、次の記事で説明していますので、参考にしてください。

≫ 二次的調音などの子音のさまざまな調音

舌唇音

13個の子音の分類には含めませんでしたが、舌唇音(ぜっしんおん)という子音を使う言語があります。これは舌端を上唇に接近・接触させて調音する子音です。IPAでは舌唇音には個別の記号が割り振られていないため、歯茎音や歯音の記号に補助記号 [ ̼] を付けて [t̼] のように表します。

参考文献
  • 神山孝夫(2012)『ロシア語音声概説』研究社.
  • 小泉保(2003)『改訂 音声学入門』大学書林.
  • 斎藤純男(2006)『日本語音声学入門 改訂版』三省堂.
  • 斎藤純男(2010)『言語学入門』三省堂.
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