音声を記述するための国際音声記号IPA【語学を楽しむための音声学】

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実際の言語で使われる音声がいったいどのような音なのかを、できるだけ正確に理解するには、国際音声記号の理解が欠かせません。

国際音声記号は、世界中のさまざまな音声を表すために、子音、母音、記号類に大きく分けて定義されています。しかし、物理的に連続した無限の音声を、有限の記号で表したものですから、どんな音声でも表せるような完全なものではありません。

それでも語学という目的のためには、十分な音声の情報を与えてくれます。

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国際音声記号とは

音声記号は、音声を表記するための特別な表記体系のことです。世界的には、国際音声記号(International Phonetic Alphabet; IPA)が多く使われていて、省略してIPAと呼ばれます。これは国際音声学会(International Phonetic Association)が定めたもので、時々改訂されています。内容的には2015年版が最新ですが、複数の文字フォントで表記した例が、CC BY-SAコピーライトのもと、2020年版として利用可能となっています。

IPAは、世界中の多種多様な言語の音声を子音と母音の2種類に大きく分けて、それぞれを調音の仕方によって細かく分類して、その一つ一つの音声に記号を割り当てたものです。

子音の一覧

子音は、肺気流による子音、非肺気流(喉頭気流と軟口蓋気流)による子音、その他の記号の3つに分かれています。

肺気流による子音

肺の働きによって気流を発動する肺気流による子音は、もっとも一般的な子音です。これらの子音は、調音される場所と、調音される方法によって分類できます。IPAではこの分類に従って、調音の場所を横に、調音の方法を縦に並べた表の形で、子音の記号を並べています。

調音の場所による分類は、両唇音、唇歯音、歯音、歯茎音、後部歯茎音、そり舌音、硬口蓋音、口蓋垂音、喉頭音、声門音の11種類が並べられています。わたしの次の記事では、13種類の調音の場所を説明していますが、この内の歯茎硬口蓋音と喉頭蓋音は、IPAの肺気流の表には載っていません。この2種類の子音は、その他の記号の欄に掲載されています。

≫ 調音の場所による子音の分類

調音の方法による分類は、破裂音、鼻音、ふるえ音、たたき音またははじき音、摩擦音、側面摩擦音、接近音、側面接近音の8種類に区分されています。これらの分類については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

≫ 調音の方法による子音の分類

国際音声記号の肺気流による子音一覧

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
(CC BY-SA)2020 IPA をもとに、Gen語学.com が改変

表の枠内で記号が対になっているのは、左側が無声音、右側が有声音を表わします。また、網掛け部分は、調音することが不可能だと考えられていることを表わします。

補足

表の中には空欄も多くあります。それらの音声は、IPAで記号を割り振られていないだけで、調音することは可能です。

非肺気流による子音

肺以外を使って気流を作り出す非肺気流による子音は、軟口蓋気流による吸着音、喉頭気流による有声入破音と放出音の3つに分けられています。IPAには次の子音が掲載されています。

  • 吸着音:両唇音 [ʘ]、歯音 [ǀ]、歯茎音 [ǃ]、硬口蓋歯茎音 [ǂ]、歯茎側面音 [ǁ]
  • 有声入破音:両唇音 [ɓ]、歯茎音 [ɗ]、硬口蓋音 [ʄ]、軟口蓋音 [ɠ]、口蓋垂音 [ʛ]
  • 放出音:両唇音 [pʼ]、歯茎音 [tʼ]、軟口蓋音 [kʼ]、歯茎摩擦音 [sʼ]

これらの子音については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

≫ 放出音、入破音、吸着音という肺気流を使わない子音

その他に分類された子音

肺気流による子音と非肺気流による子音のどちらの表にも掲載されなかった子音が、その他の記号の欄に並んでいます。具体的には、次の子音です。

  • 二重調音:無声両唇軟口蓋摩擦音 [ʍ]、有声両唇軟口蓋接近音 [w]、有声両唇硬口蓋接近音 [ɥ]、後部歯茎軟口蓋摩擦音 [ɧ]
  • 喉頭蓋音:無声喉頭蓋摩擦音 [ʜ]、有声喉頭蓋摩擦音 [ʢ]、喉頭蓋破裂音 [ʡ]
  • 歯茎硬口蓋音:歯茎硬口蓋摩擦音 [ɕ][ʑ]
  • 側面はじき音:有声歯茎側面はじき音 [ɺ]

またここには、破擦音と二重調音は、必要な場合は連結記号でつないだ2つの記号で表わすことができることが書かれていていて、[t͜s][k͡p] が例に挙げられています。

母音の一覧

母音は、舌の最も高くなる位置に着目して、それが前か後ろか、高いか低いかを基準にして分類できます。さらに、唇を丸めて調音するかどうかでも区別されます。この3つの分類基準に基づいて、母音四角形の上に母音記号を並べて、母音の種類を表わしています。母音四角形では、舌の前後と高低を、それぞれ左右と上下で表わし、唇の丸めの有無を黒点の左右の位置で区別しています。下の図では、唇を丸めずに調音する非円唇母音を赤色で、唇を丸めて調音する円唇母音を青色で表わしています。

国際音声記号の母音一覧
国際音声記号の母音一覧

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
(CC BY-SA)2020 IPA をもとに、Gen語学.com が改変

母音の分類については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

≫ 3つの基準による母音の分類

補助記号の一覧

子音と母音の発音をさらに変化させるような調音を表わすために、次に示すような補助記号が決められています。

国際音声記号の補助記号一覧
  ̥ 無声  ̤ 息もれ声  ̪ 歯音
  ̬ 有声  ̰ きしみ声  ̺ 舌尖音
 ʰ 有気音  ̼ 舌唇音  ̻ 舌端音
  ̹ 強い円唇化 ʷ 唇音化  ̃ 鼻音化
  ̜ 弱い円唇化 ʲ 硬口蓋音化 ⁿ 鼻腔開放
  ̟ 前寄り ˠ 軟口蓋音化 ˡ 側面開放
  ̠ 後ろ寄り ˤ 咽頭化 ̚ 無開放閉鎖
  ̈ 中舌化  ̴ 軟口蓋音化または咽頭化
  ̽ 中央化  ̝ 上寄り
  ̩ 音節主音  ̞ 下寄り
  ̯ 非音節主音  ̘ 舌根前進
 ˞ R音性  ̙ 舌根後退

なお、下に長い文字の下に補助記号をつけるときは、文字の上に記号を付けてもよいことになっています。ですから [ŋ][  ̥ ] を付けるときは [ŋ̊] としてもよいのです。

子音と母音の、さまざまな調音方法については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

≫ 二次的調音などの子音のさまざまな調音

≫ 二重母音や鼻音化などの母音のさまざまな調音方法

超分節音などを表わす記号の一覧

複数の音声をまとまりとして考えたときの特徴を表わすために、超分節音を表わす記号が用意されています。

音声の長さ

超分節音ではありませんが、音声の長さを表わす記号が決められていて、長さを区別することが重要なときに使われます。子音でも母音でも長さの違いを表わすことができますが、[e] を例にすると、短い音声から長い音声へ、超短 [ĕ]、通常 [e]、半長 [eˑ]、長 [eː] と表わすことができます。必要な場合にはさらに、超長 [eːː] と表わすことも可能です。

アクセント

言語によっては、音声の高さの違いによって単語を区別します。また、音声の強さの違いによって単語を区別する言語もあります。単語の中で、音声の高さ(ピッチ)や強さ(ストレス)を相対的に変えることによって単語を区別する決まり事をアクセントと呼びます。

アクセントの種類を分類するには、いくつかの考え方があるようですが、ここでは、ストレスアクセント、ピッチアクセント、トーンの3つに分類することにします。

ストレスアクセントは、単語内の特定の音節を強く発音することです。

ピッチアクセントは、単語内の特定の音節を高く発音することです。

そしてトーンは、高さの変化パターンを単語内の音節に当てはめて発音することです。音節トーンや声調(せいちょう)とも呼びます。トーンには、それぞれの音節に高さの変化パターンがある曲線トーンと、それぞれの音節の高さは一定で、音節どうしの相対的な高さのレベルが決まっている段位トーンに分けられます。

補足

高さの変化パターンを音節に当てはめるのではなく、単語によって変化パターンが決まっていて、単語を含む句全体でピッチが変化するものもあって、これを単語トーンと呼びます。

IPAでは、アクセントの記号を次のように決めています。ストレスアクセントは、主となるストレスが置かれる音節の前に [ ˈ ]、二次的なストレスの置かれる音節の前に [ ˌ ] を付けて表わします。

トーンを表わす記号には2種類の表記があります。一つは、[é] のように文字の上に符号を付けるものです。もう一つは、[˩˥] のように、縦棒の左側に相対的な音の高さを表わす記号を添えて、図として表わした記号です。

国際音声記号のトーン記号
段位トーン曲線トーン
  ̋  ˥ 超高  ̌  ˩˥ 上昇
  ́  ˦   ̂  ˥˩ 下降
  ̄  ˧   ᷄  ˧˥ 高上昇
  ̀  ˨   ᷅  ˩˧ 低上昇
  ̏  ˩ 超低  ᷈  ˦˥˦ 上昇下降

また、段位トーンにおいて、本来の高さよりも低く発音するダウンステップ [ ꜜ ]、反対に高く発音するアップステップ [ ꜛ ] も定義されていて、高さが変化する直前にこれらの記号を付けます。ダウンステップの記号は、直前の音節がピッチアクセントであることを表わすのにも使うことができます。

ここでいくつか注意が必要です。例えば、[é] は右上がりの記号ですが上昇トーンではありません。表わしているのは段位トーンであって、平板な高トーンです。上昇トーンを表わすには、低トーン [  ̀ ] に高トーン [  ́ ] をつなげて [  ̌ ] と表わします。図として表わした記号では、高さの変化のイメージをそのまま表わしているので、その点では分かりやすくなっています。

また、高、中、低の相対的な3段階の段位トーンを区別したい場合、文字の上に符号を付けて表わすときは [  ́ ][  ̄ ][  ̀ ] としますが、図として表わした記号で表わすときは、[ ˦ ][ ˧ ][ ˨ ](高、中、低)ではなく、[ ˥ ][ ˧ ][ ˩ ](超高、中、超低)を使うのがふつうです。この方が、高さのレベルの違いが分かりやすいですね。

音節境界など

音節の境界を示すことが必要なときは、[ɹi.ækt] のように [ . ] で表わします。単語の境界はふつうスペースを空けて表わしますが、単語境界が音声として連結しているときは [ ‿ ] の記号を使って表わすことができます。例えばフランス語の petit ami を [pətit‿ami] のように表せます。

語をまたいだ節や文全体について、音声のピッチの変化を表わすために、全体的上昇 [↗] や全体的下降 [↘] という記号が用意されています。文のイントネーションを表わすときに使われます。この場合、イントネーションの境界を [ ‖ ]、それよりも小さな境界を [ | ] で表わします。

精密音声表記と簡略音声表記とは

これまでの説明で使ってきたように、音声記号は [ ] に入れて表します(図や表の中では省略しています)。音声表記の細かさ、精密さには相対的な段階があって、精密音声表記と簡略音声表記と呼ばれます。

精密音声表記は、より細かな発音の違いをとらえて表わした表記です。精密さの程度には、さまざまな段階があって、精密になればなるほど補助記号などの特別な記号が必要となります。

一方、簡略音声表記は、細かな発音の特徴は無視して簡単に表わした表記です。ある言語の音声を記述するためには、ふつうの目的には簡略音声表記で十分です。もっとも簡略なものは、その言語において意味を区別するのに必要最小限の記号を用いた表記となります。これは音素表記と近いものになります。

補足

音素表記は、その言語において意味を区別する働きのない音をひとまとめにして表わしたもので、ふつう / / に入れて表わします。どのような文字や記号を使って表わしてもよいのですが、国際音声記号の中から、もっとも近い音声で簡単な文字を選ぶのがふつうです。

音素については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

≫ 音声学と音韻論、音声と音素の違い

音声表記の例

日本語の「手」を例にすると、精密な表記として [t̪ʰɛ̝] が考えられます。最初の子音 [t̪ʰ] は、[t] だと歯茎音も歯音も表わすことができるので、歯音であることを明確にして、なおかつ、少し気音を含んで帯気音化している様子を積極的に表わしたものです。しかし中国語の有気音などと比べると気音は弱く、また日本語には有気音と無気音の対立はないので、あえて気音を表わす必要はないという考え方もあります。そうすると簡略表記では [t] でよいことになります。

また母音 [ɛ̝] は、[e][ɛ] の間の口の開きであることから、上寄りの [ɛ] と表わしたものです。しかし [e] に近く発音する人も、[ɛ] に近く発音する人もいます。ですから、より発音の近い記号を使うことで十分だとも考えられます。

したがって、「手」の精密音声表記 [t̪ʰɛ̝] は、[tɛ] または [te] という簡略音声表記になります。

なお、音素表記の場合は、日本語では [e][ɛ] の音声の違いは意味の区別に働かないことを根拠として、このどちらか一方で表記しますが、ふつうはより簡単な文字である [e] を使って /te/ と表わします。

国際音声記号は万能ではありません

IPAがあれば、世界中の音声を表せるのではないかと錯覚してしまいがちですが、決して完全なものではありません。物理的に連続した無限の音声を、無理を承知で有限の記号で表したものだということに注意する必要があります。そもそも子音と母音の境目も曖昧です。

それでも語学という目的のためには、十分すぎる程の音声の情報を与えてくれます。ぜひIPAを活用して語学を効率的に楽しみましょう。

参考文献
  • 亀井孝、河野六郎、千野栄一(編著)(1996)『言語学大辞典 第6巻 述語編』三省堂.
  • 小泉保(2003)『改訂 音声学入門』大学書林.
  • 斎藤純男(2006)『日本語音声学入門 改訂版』三省堂.
小泉 保(著)
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斎藤 純男(著)
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