白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。
当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。
2024年1月には同じテュルク諸語の『ニューエクスプレスプラス ウズベク語』が発売されるので、この機会にタタール語を一気に学習することにしました。
タタール語チャレンジの10日目は、第17課と第18課です。タタール語の動詞の仮定形と副動詞を学習します。
タタール語チャレンジの進め方
『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。
全20課を1日に2課ずつ学習を進めて、その様子を記事にしています。
タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。
この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。
白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。
第17課
副動詞
副動詞は、副詞的な働きをする動詞の形です。
日本語の動詞の連用形のように、ある節(せつ)を別の節へとつなぐ働きをします。
副詞的な働きをする動詞の形には、不定形もありました。動詞の不定形が副詞的に使われるときは、「~するために」や「~して」のような意味を表します。
副動詞 -ып
-ып 形の副動詞は、ある動作より前に先行して行なわれる動作を表します。「~して(、~する)」のような意味を表します。
次のような接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -п | |
子音で終わる語幹 | -ып | -еп |
この副動詞が表す動作の動作主と、この後に続く動作の動作主は、同じであることがふつうです。
-ып 形の副動詞の否定は、「~せずに」、「~しないで」という意味を表します。これは、否定語幹に -ып の接尾辞を付けるのではありません。動詞の現在形の否定と同じ形 -мый / -ми で表します。
または、これにさらに -ча / -чә が付いた -мыйча / -мичә という形も使われます。
副動詞 -а
-а 形の副動詞は、同時に行なわれる動作「~しながら」や、何度も繰り返して行なわれる動作「(何度も)~して」のような意味を表します。
これは、動詞の現在形と同じ形で表します。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 (最後の母音を取り除く) | -ый | -и |
子音で終わる語幹 | -а | -ә |
また、この副動詞は、яза-яза「何度も書いて」のようにハイフンでつないで、2回繰り返して使われることが多いようです。
この副動詞が表す動作の動作主と、この後に続く動作の動作主は、同じであることがふつうです。
-а 形の副動詞の否定は、-ып 形の副動詞の否定と同じ形です。「~せずに」、「~しないで」という意味を表します。これは、否定語幹に -ып の接尾辞を付けるのではありません。動詞の現在形の否定と同じ形 -мый / -ми で表します。
または、これにさらに -ча / -чә が付いた -мыйча / -мичә という形も使われます。
副動詞 -гач
-гач 形の副動詞は、すぐ直前に行なわれる動作「~すると」や、条件「~すれば」のような意味を表します。
次のような接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音・有声子音で終わる語幹 | -гач | -гәч |
無声子音で終わる語幹 | -кач | -кәч |
この副動詞が表す動作の動作主は、この後に続く動作の動作主と違っていても構いません。
この副動詞の否定「~しないと」、「~しなければ」は、否定語幹に -гач / -гәч を付けて作ります。このため、-магач / -мәгәч となります。
副動詞 -ганчы
-ганчы 形の副動詞は、「~する前に」や「~するまでに」のような意味を表します。
次のような接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音・有声子音で終わる語幹 | -ганчы | -гәнче |
無声子音で終わる語幹 | -канчы | -кәнче |
この副動詞が表す動作の動作主は、この後に続く動作の動作主と違っていても構いません。
また、この副動詞の否定形はありません。
推量の表現
ある事柄について話し手が推量して「(たぶん)~だろう」と述べるとき、述語の末尾に次のような推量の付属語をつけて表します。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音・有声子音で終わる語幹 | -дыр | -дер |
無声子音で終わる語幹 | -тыр | -тер |
この推量の付属語にはアクセントは置かれません。
推量の表現では、副詞の бәлки「たぶん」を一緒に使うことも多いようです。
意外の表現
ある事柄が意外であることや、驚いたり気づきの気持ちを表したりする場合、述語の後ろに икән「~なのか!」を付けて表します。
述語が動詞以外の場合、つまり名詞や形容詞の場合は、икән に人称の付属語が付くことがあります。
後舌母音 | 前舌母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 1人称 мин | -мын | -мен |
2人称 син | -сың | -сең | |
複数 | 1人称 без | -быз | -без |
2人称 сез | -сыз | -сез |
第18課
動詞の仮定形
動詞の仮定形は、次のような意味を表します。
動詞の仮定形は、動詞の語幹に -са / -сә を付けて作ります。
また、仮定形の否定は、否定語幹に -са / -сә を付けるので、-маса / -мәсә という形になります。
主語が1・2人称の場合、仮定形には人称の接尾辞が付きます。人称の付属語ではないことに注意してください。動詞の過去形に付くのと同じ人称の接尾辞です。
後舌母音 | 前舌母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 1人称 мин | -м | |
2人称 син | -ң | ||
複数 | 1人称 без | -к | |
2人称 сез | -гыз | -гез |
述語が動詞ではなく、名詞や形容詞の場合には、名詞や形容詞の後に бул-「である」を仮定形にした булса を置きます。「~であれば」のような意味になります。
また、仮定形を使った文には、әгәр「もし」という副詞が使われることが多いようです。
仮定形を使った表現
動詞の仮定形は、単独で仮定や条件の意味を表しますが、ほかの単語と組み合わせることによって、いろいろな細かな意味合いを表現することができます。
「~するならば~するだろう」
ある条件が成り立つときに行なわれる動作を表します。
この場合、前段には仮定形、後段には不確定未来形を使います。
「~していたならば~したのに」
現実に反する仮定のもとに、行なわれたであろう動作を表します。反実仮想の文と言ったりします。
この場合、前段には完了形+булса、後段には完了形+булыр идеで表します。
булса は бул-「である」の仮定形、булыр は бул- の不確定未来形です。
иде は「~だった」という過去を表す表現です。иде には人称の接尾辞が付きます。
「~ならいいのに」
「~ならなぁ」という願望は、仮定形を文末で使うことで表すことができます。
また、この仮定形の後に иде を続けると、控えめなニュアンスが付け加わって「~ならいいのに」のような控えめな願望・要求の意味を表します。
「~しても」
仮定形に、添加の付属語 да / дә「~も」を続けると、「~しても」、「~でも」のような譲歩の意味を表します。
「~してもよい」
仮定形に була や ярый を続けると、「~してもよい」という許可を表す意味になります。
була は бул-「なる」の現在形、ярый は яра-「適する」の現在形です。
練習問題
日本語の文からタタール語の文を作る練習問題を通じて、文法をおさらいしましょう。
(1) シュラレは人をくすぐって殺す。
「シュラレ」は妖怪の名前であると本書に書かれています。
「くすぐって殺す」の「くすぐって」は、「殺す」という動作に先行する動作ですから、副動詞の -ып 形で表現してみましょう。
кытыкла-「くすぐる」が母音で終わっているので -п だけを付けて、кытыклап が「くすぐって」となります。
「殺す」は現在形で良さそうです。үтер- は子音で終わる前舌母音の動詞ですから、-ә を付けて үтерә です。
したがって、Шүрәле кешене кытыклап үтерә. となります。
Шүрәле кешене кытыклап үтерә.
(2) 動画を見る前にこのテキストを読んでください!
「見る前に」は、副動詞の -ганчы 形を使って表すことができますから、видеоны караганчы となります。
この文脈では、何かの動画を見ようとしている人に対して、その前にテキストを読むようにと呼びかけていると考えられます。ですから、これは特定の動画でしょう。видео「動画」には対象格の接尾辞を付けて、видеоны としておきましょう。
「このテキストを」のテキストは、特定のテキストですから対象格の形にしましょう。текст は前舌母音の単語ですから ✕текстнә となりそうですが、これはロシア語由来の単語ですから -ны を付けて、текстны となります。
「読んでください」は、丁寧な、2人称複数に対する命令と考えましょう。「読め」ではなく「読んでください」ですからね。
укы-「読む」に -гыз を付けて укыгыз です。
Видеоны караганчы бу текстны укыгыз!
(3) あなたが10万ルーブルくれれば、私は行きます。
「10万ルーブルくれれば」は、条件を表していますね。仮定形にしてみましょう。
бир-「与える」を仮定形にして бирсә となって、さらに、2人称複数の人称の接尾辞を付けると、бирсәгез となります。仮定形に付けるのは、過去形に付けるのと同じ人称の接尾辞です。間違って人称の付属語を付けて ✕бирсәсез としないように注意しましょう。
「10万」は「100千」という言い方をします。йөз「100」、мең「1000」なので、йөз мең で「10万」です。
「私は行きます」は、ふつうに現在形で表して、барам でよいですね。бар-「行く」、-а(現在形の接尾辞)、-м(1人称単数の人称の付属語)です。人称代名詞の мин「私」はなくて構いません。
Йөз мең суи бирсәгез, барам.
(4) 誰であってもいいです。
「~しても」、「~でも」という譲歩の構文です。
кем「誰」は疑問詞ですが、名詞的な単語ですから、その後に бул-「である」の仮定形 булса を続けて、さらに添加の付属語 да を置きます。кем булса да「誰であっても」となります。
「いいです」は、ここでは「よい」、「悪い」の「よい」という意味を表しているのではなく、「誰でも構わない」、「誰でもOKだ」ということです。これにふさわしい単語は яаый「OKだ」です。
Кем булса да яаый.
(5) そこに2年住むと、私たちの弟ラミルが生まれた。
「2年住むと」は、「生まれる」という動作の直前の動作です。逆に言うと、「2年住む」という動作の直後に「生まれる」という動作が起こったということです。
このような場合には、副動詞の -гач 形を使って表現できます。「そこに2年住むと」は、анда ике ел яшәгәч となります。
「私たちの弟」は、эне「弟」に所有接尾辞を付けて энебез とするだけでよいですね。
「生まれた」は過去形を使って туды と表せます。
Анда ике ел яшәгәч, энебез Рамил туды.
(6) 私自身は不幸になってもいい。
「~自身」は、үз という再帰代名詞に所有接尾辞を付けることで表します。「私自身」は、1人称単数の所有接尾辞を付けて үзем となります。
なお、үз を名詞の前におくと「自分の~」という意味になります。再帰代名詞については、次の記事で説明していますので参考にしてください。
бәхетсез бул-「不幸になる」を譲歩の意味にするためには、仮定形に添加の付属語を続けます。ですから、はじめ、✕бәхетсез булса да としてしまいました。
しかし、「不幸になる」の主語は「私」ですから、仮定形に人称の接尾辞を付けなければなりません。正しくは、бәхетсез булсам да です。人称の接尾辞や付属語をついつい忘れがちです。
この文の「いい」は、問題(4)と同じように「構わない」、「OKだ」という意味ですね。ярый で表すことができます。
Үзем бәхетсез булсам да ярый.
(7) 寮に住んだ人たちは知っているでしょう。
前半の「住んだ人たち」は、日本語文法でいえば連体形、つまり、形動詞を使えばよいですね。「住んだ」ですから過去の形動詞 -ган 形です。
また、形動詞だけで「~した人」、「~したこと」という意味を表すことができるのでした。したがって、тулай торакта яшәгәннәр で「寮に住んだ人たちは」となります。
ここでは、「寮に」を位置格の形にすること、「住んだ人たち」は複数なので複数の接尾辞を付けることに注意しなければなりません。さらに複数の接尾辞は、яшәгән という -н で終わる単語に付けるので -нар / -нәр という形になります。
形動詞については、次の記事で説明していますので参考にしてください。
後半の「知っているでしょう」は、推量の表現ですね。推量の付属語を付ければよいだけです。бел-「知る」に現在形の接尾辞 -ә を付けてから推量の接尾辞を付けるので、беләдер となります。
Тулай торакта яшәгәннәр беләдер.
(8) 教師になるのは難しいのですね!
「教師になるのは」は、「教師になることは」ということですから、「なる」という動詞を「なること」という名詞の働きをする形にしなければなりません。
動詞を名詞にするための一般的な形は動名詞です。動詞の語幹に -у / -ү を付けるのが基本です。
「教師になること」は、укытучы булу となります。
後半の「難しいのですね」の部分は、意外な気持ちを表していると考えましょう。述語の後ろに икән を付けるだけです。авыр икән で出来上がりです。
Укытучы булу авыр икән!
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