白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。
当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。
2024年1月には同じテュルク諸語の『ニューエクスプレスプラス ウズベク語』が発売されるので、この機会にタタール語を一気に学習することにしました。
タタール語チャレンジの7日目は、第11課と第12課です。タタール語の動詞の提案形や願望形、受動や使役の表現を学習します。
タタール語チャレンジの進め方
『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。
全20課を1日に2課ずつ学習を進めて、その様子を記事にしています。
タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。
この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。
白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。
第11課
動詞の提案形
動詞の提案形は、次のような意味を表します。
提案形には、мин による提案形と、без による提案形があります。
мин による提案形は、「私は~しよう」の意味を表します。これを「提案形単数」と呼んだりします。
без による提案形は、「私たちは~しよう」の意味を表します。これを「提案形複数」と呼んだりします。
これらの提案形は、語幹に次のような提案形の接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
мин による提案形 | -ыйм | -им |
без による提案形 | -ыйк | -ик |
ただし、母音で終わる語幹には、その母音を取り除いてから提案形の接尾辞を付けます。
提案形の否定
提案形の否定は、否定語幹に提案形の接尾辞を付けます。このとき、否定語幹の最後の母音を取り除きます。
したがって、提案形単数の否定は -мыйм / -мим、提案形複数の否定は -мыйк / -мик が、動詞の語幹に付くことになります。
動詞の願望形
動詞の願望形は、次のような意味を表します。
願望形は、語幹に -сын / сен という願望形の接尾辞を付けて作ります。
また、複数の人に対する願望では、動詞の願望形にさらに複数を表す -нар / -нәр が付くことがあります。
願望形は話し手による願望を表しますが、文の主語は「私」ではありません。主語は、その動作を行なう3人称の人ですから、注意してください。
願望形の否定
「~しないように」のような願望形の否定は、否定語幹に -сын / сен を付けて作ります。
願望形+иде
願望形の後ろに иде を置くことで、「~してほしい」という3人称に対す控えめな希望や要求を表すことができます。
第12課
受動や使役などの表現は、文法用語では「態(たい)、voice」と呼ばれます。態は、文で中心となる動作と、その動作を行なう人や物、動作を受ける人や物との関係を表す文法用語です。
タタール語では、動詞の語幹に、さまざまな態を表す接尾辞を付けて表します。これらの接尾辞の付いた形が新しく動詞語幹となって、さらに時制や人称の接尾辞などが付きます。
受動の動詞
「~される」という受動の動詞語幹は、受動の接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音(ла / лә 以外)で終わる語幹 | -л | |
子音(л 以外)で終わる語幹 | -ыл | -ел |
ла / лә で終わる語幹 | -н | |
л で終わる語幹 | -ын | -ен |
基本的には -л や -ыл / -әл で終わるのですが、語幹末が -л に関係していると接尾辞が -н や -ын / -ән になります。
動詞によっては、受動の接尾辞が付いて、「閉める」から「閉まる」のように、他動詞から自動詞の意味に変わるものもあります。
使役の動詞
「~させる」という使役の動詞語幹は、使役の接尾辞を付けて作ります。
使役の接尾辞にはいくつかの種類があって、動詞によってどの接尾辞が付くか決まっています。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音や р で終わる語幹 | -т | |
その他の語幹 | -дыр | -дер |
-тыр | -тер | |
-ыр | -ер | |
-ар | -әр |
それぞれの動詞がどのような使役の形になるかは、辞書を調べる必要があります。辞書には、接尾辞の付いた形も基本的に載っているそうです。
動詞によっては、使役の接尾辞が付いて、「出る」から「出す」のように、自動詞から他動詞の意味に変わるものもあります。
相互の動詞
「(互いに)~する」、「(一緒に)~する」、「~しあう」という相互の動詞語幹は、相互の接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -ш | |
子音で終わる語幹 | -ыш | -еш |
相互の接尾辞は -ш が特徴ですね。
再帰の動詞
「自分を~する」、「自ずと~する」という再帰の動詞語幹は、再帰の接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -н | |
子音で終わる語幹 | -ын | -ен |
再帰代名詞
再帰の動詞に関連して、再帰代名詞について学習します。
タタール語には үз という再帰代名詞があります。
名詞の前に置いて、「自分の~」のように形容詞的な意味を表します。
ただし、үз に所有接尾辞が付くと、その所有者自身という名詞的な意味を表します。
再帰代名詞の使い方は、練習問題の(7)と(8)で確認しましょう。
練習問題
日本語の文からタタール語の文を作る練習問題を通じて、文法をおさらいしましょう。
(1) さあ、通りに出ましょう!
提案形を使う文のようですね。
提案形の文で「さあ」のように促す気持ちを表すには、әйдә や әйдәгез を使います。әйдә は син に対して、әйдәгез は сез に対して促すときに使います。
ここでの日本語文は「出ましょう」ですから、敬称の сез に対して話していると考えて、әйдәгез を使ってみましょう。
「通りに」の「に」は、「出る」という動作の到達点を表しますから、方向格の接尾辞を付けるのがよいでしょう。урамга となります。
「出ましょう」の提案形は、聞き手を含めた「私たち」が主語と考えられます。提案形複数の接尾辞 -ыйк を付けると ✕чыкыйк となりそうですが、к, п で終わる語幹に、母音で始まる接尾辞が付くと、г, б に子音交替するのでした。このため чыгыйк となります。
Әйдәгез, урамга чыгыйк!
(2) 手を洗おうっと。
「洗おうっと」は、どのような状況を表しているでしょうか。
話し手の意思の表明のような感じでしょうか。このような場合には動詞の提案形を使うのですね。
洗う対象は「話し手自身の手」ですから、кул「手」には1人称の所有接尾辞を付けて、さらに対象格の接尾辞も必要です。
кул + -ым + -ны で、кулымны となります。
ю-「洗う」には提案形単数の接尾辞 -ыйм / -им のどちらかを付けることになります。ю は 後舌母音の й+у [ju] と前舌母音の й+ү [jʉ] の両方の発音を表す文字でした。残念ながら文字の綴り ю- からはどちらの発音なのかは分かりません。
辞書を調べたり、他の接尾辞の付いた形を覚えるしかありませんが、この単語の場合は後舌母音です。ですから -ыйм を付けましょう。
模範解答では、さらに文末に әле が付いていました。意志や提案を強調する単語です。日本語文の「~っと」の部分に対応しているのでしょう。
Кулымны юыйм әле.
(3) あなたの子どもが学校に遅れないようにしてください。
「あなたの子ども」は、балагыз のように2人称複数の所有接尾辞を付けて表すのが最もシンプルです。
сезнең балагыз や сезнең бала でも構いません。
「~に遅れる」の「~に」は方向格で表すので、「学校に」は мәктәпкә となります。
「遅れないようにしてください」は、3人称に対する願望、あるいは間接的な命令ですから、願望形を使います。
соңга кал-「~に遅れる」に否定の接尾辞 -ма を付けて、願望形の接尾辞 -сын を付ければ出来上がりです。
Балагыз мәктәпкә соңга калмасын.
(4) お父さんは飲まないでほしいな。
これも願望を表す文ですね。
ここでは誰のお父さんかは分からないので、そのまま әти を使っておきましょう。
「飲まないようにしてください」と間接的に命令するのではなく、もっと控えめに「飲まないでほしいな」と言っているので、願望形の後ろに иде を付けた形で表します。
эч + -мә + -сен に иде を付けて、эчмәсен иде となります。
Әти эчмәсен иде.
(5) 集会はいつはじまりますか?
上に示したように、「はじまる」という動詞は башлан- といいます。これは башла-「はじめる」を受動の形で表現して、他動詞が自動詞になった単語です。
「はじまりますか?」は、近い未来に実現する動作ですから現在形で表すことができます。
Җыелыш кайчан башлана?
(6) ハチは花に隠れた。
「隠れる」は、яшер「隠す」という他動詞から作られますが、受動ではなく再帰の接尾辞を付けて яшерен- と表します。「自分を隠す」ので「隠れる」ということですね。
「花に」は、位置格を使うか方向格を使うか少し悩みましたが、方向格を使うのが正解のようです。どの格を使うべきか判断するには、慣れが必要ですね。
Бал корты чәчәккә яшеренде.
(7) 私は自分自身の意見を言いました。
再帰代名詞には形容詞的な使い方と名詞的な使い方がありました。
ここでは「自分自身の意見」です。「自分の~」のように形容詞的に使えば良さそうです。
үз фикер で「自分の意見」となりますが、「私の意見」なので1人称単数の所有接尾辞 -ем を付けなければいけません。さらに「意見を」なので対象格の接尾辞 -не も忘れずに付けましょう。
「言いました」は、әйт-「言う」に過去形の接尾辞と1人称単数の人称の接尾辞を付けるだけです。
Мин үз фикеремне әйттем.
(8) 物語を私たち自身で書いています。
「私たち自身」は、再帰代名詞 үз を名詞的に使って、1人称複数の所有接尾辞を付けて表します。үзебез となります。
文の構造としては、「書く」という動作を行なうのは「私たち」ですから、үзебез を主語と考えます。
「物語を私たち自身が書いています。」と解釈するわけですね。
この語順の場合、「物語」は特定の物とは考えられませんが、動詞の直前には置かれませんから、対象格の接尾辞を付けましょう。
「書いています」は現在形です。яз-「書く」に現在形の接尾辞 -а / -ә のどちらかを付けますが、я は й+а [jɑ] と й+ә [jæ] のどちらなのか分かりません。辞書で調べると後舌母音の単語であることが分かります。
したがって現在形の接尾辞は -а が付いて、さらに1人称複数の人称の付属語 -быз が付きます。
Әкиятне үзебез язабыз.
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