白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。
当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。
2024年1月には同じテュルク諸語の『ニューエクスプレスプラス ウズベク語』が発売されるので、この機会にタタール語を一気に学習することにしました。
タタール語チャレンジの9日目は、第15課と第16課です。タタール語の形動詞を学習します。
タタール語チャレンジの進め方
『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。
全20課を1日に2課ずつ学習を進めて、その様子を記事にしています。
タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。
この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。
白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。
第15課
形動詞
形動詞は、形容詞的な働きをする動詞の形です。
日本語の動詞の連体形のように、名詞を修飾して「~する~」、「~した~」のような意味を表すのが基本です。
形容詞的な働きをする動詞の形には、不定形もありました。動詞の不定形が形容詞的に使われるときは、「~するための~」のような目的を表す意味となります。
過去の形動詞 -ган
過去の形動詞は、「~した~」や「(すでに)~している~」のような過去の動作についての形容詞的な意味を表します。
動詞の完了形と同じ接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音・有声子音で終わる語幹 | -ган | -гән |
無声子音で終わる語幹 | -кан | -кән |
現在の形動詞(1) -учы
現在の形動詞は、「~する~」や「~している~」のような現在の動作についての形容詞的な意味を表します。
現在の形動詞には2種類あります。-учы 形の形動詞は、その動作を行なう動作主を修飾するときにしか使えません。
-учы 形の形動詞は、動名詞 -у / -ү に -чы / -че を付けた形をしています。ですから -учы / -үче という形になります。
現在の形動詞(2) -а торган
現在の形動詞の2つめは -а торган 形です。
-учы 形とは違って、動作を行なう動作主以外の名詞を修飾することができます。
この形動詞は、-учы 形の形動詞と同じように「~する~」や「~している~」のような意味ですが、その表す意味は幅広く、「パンを切るナイフ」の「切る~」のように、道具を表す名詞を修飾するような場合もあります。
-а торган という形は、動詞の現在形に、тор-「立つ」の -ган 形(過去の形動詞)が続いたものです。
参考に、動詞の現在形の接尾辞は次のような形でした。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 (最後の母音を取り除く) | -ый | -и |
子音で終わる語幹 | -а | -ә |
未来の形動詞(1) -ыр
未来の形動詞の1つめは -ыр 形です。
「~する(であろう)~」のようにシンプルに未来の動作を形容詞的に表したり、「~する(ような)~」のように時制に関係なく修飾する名詞の性質を表すことができます。
-ыр 形の形動詞は、動詞の不確定未来形と同じです。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -р | |
子音で終わる語幹 | -ыр | -ер |
子音で終わる語幹 (特別な場合) | -ар | -әр |
特別な場合というのは、動詞の語幹が1音節で、л, р 以外の子音一つで終わるときです。
未来の形動詞(2) -ачак
未来の形動詞の2つめは -ачак 形です。
-ыр 形の形動詞に比べて、未来において動作が行なわれる可能性が高いときに使われます。
「~する予定の~」や「(絶対に)~する~」のような意味を表します。
-ачак 形の形動詞は、動詞の確定未来形と同じです。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -ячак | -ячәк |
子音で終わる語幹 | -ачак | -әчәк |
このように、-ыр 形の形動詞と -ачак 形の形動詞は、動詞の不確定未来形と確定未来形の形と対応しています。
この違いが、それぞれの形動詞の表す意味の違いにつながっています。
未来の形動詞(3) -асы
未来の形動詞の3つめは -асы 形です。
この形動詞が表すのは単純な未来ではなくて、「~すべき~」のような義務の意味が含まれています。
-асы 形の形動詞は、動詞の現在形に -сы / -се が付いた形です。
形動詞の動作主
形動詞が修飾する名詞が、形動詞の表す動作の動作主ではない場合、形動詞の動作主は主格の形の名詞や代名詞で表すのがふつうです。
つまり、「~が(主格) ~する/した(形動詞) ~(名詞)」という構造ですね。
ただし、所有格の名詞や代名詞と、修飾される名詞に所有接尾辞が付くことで動作主を表すこともあります。
この場合は、「~の(所有格) ~する/した(形動詞) ~(名詞)+所有接尾辞」となります。
第16課
形動詞の名詞的用法
形動詞は、動詞が形容詞的な働きをする形でした。
形容詞が単独で「~な人、もの・こと」のように名詞的に使われることがあるのと同じように、形動詞も「~する/した人、もの・こと」のように名詞的に使われることがあります。
このとき、形動詞には複数・所有・格の接尾辞が付くことがあります。
また、形動詞の名詞的用法が使われる次のような表現があります。形動詞が表す動作の動作主は、所有格の名詞・代名詞で表したり、形動詞に所有接尾辞を付けて表したりします。
-ган 形+бар / юк「~したことがある/ない」
過去の形動詞 -ган に бар / юк「ある・いる/ない・いない」を付けた形です。
「~したことがある/ない」という意味を表します。
-асы 形+бар / юк「~する予定・必要がある/ない」
未来の形動詞 -асы に бар / юк「ある・いる/ない・いない」を付けた形です。
「~する予定がある/ない」、「~する必要がある/ない」という意味を表します。
-асы 形+кил-「~したい」
未来の形動詞 -асы に動詞 кил-「来る」を付けた形です。
「~する気持ちが来る」ということから、「~したい」という希望の意味を表します。
形動詞の副詞的用法
形動詞に格の接尾辞を付けたり、形動詞の後に後置詞を続けたりすることによって、形動詞が副詞的に使われることがあります。
この場合、動作主を表す所有接尾辞はふつう付かないようです。
形動詞の副詞的用法が使われる表現には、次のようなものがあります。
-ган 形+位置格「~する/したときに」
過去の形動詞 -ган に位置格の接尾辞を付けた形です。
「~する/したときに」のような意味を表します。過去の形動詞ですが、表す意味は必ずしも過去のこととは限らないようです。
-ган 形+方向格(+күрә)「~する/したので」
過去の形動詞 -ган に方向格の接尾辞を付けた形です。
「~する/したので」のような意味を表します。さらに、күрә「~によれば」という後置詞を付けて表現することもできます。
この場合も、過去の形動詞ですが、必ずしも過去のことを表すとは限らないようです。
-ган 形+起点格+соң「~した後に」
過去の形動詞 -ган に起点格の接尾辞を付けて、соң を付けた形です。
соң は「遅い」という形容詞でもありますが、後置詞として起点格の名詞の後に置かれると「~の後に」という意味を表します。
形動詞に起点格の接尾辞が付いた形の後に соң が置かれると、「~した後に」という意味になります。
-ыр 形+алдыннан「~する前に」
未来の形動詞 -ыр に алдыннан が付いた形です。
-ган +起点格+соң とは逆に「~する前に」の意味を表します。
練習問題
日本語の文からタタール語の文を作る練習問題を通じて、文法をおさらいしましょう。
(1) 君のいちばん好きな料理は何だい?
まず「いちばん好きな料理」を考えましょう。
ヒントとなる単語として яраткан「好きな」が本書に載っています。これは動詞 ярат-「好む」の過去の形動詞ですね。ярат- が子音で終わっているので -ган ではなく -кан が付いています。
「いちばん」は、形容詞の最上級と同じように иң を前に置けばよいので、「いちばん好きな料理」は иң яраткан ризык となります。
「君の」はどのように表現すればよいでしょうか。
「料理」は「好む」動作を行なう動作主ではありませんから、син「君」を主格の形で使うのが一つの方法です。син иң яраткан ризык ですね。日本語では「君がいちばん好きな料理」というニュアンスでしょうか。
もう一つは、動作主を所有格の形で使って、また、形動詞が修飾する名詞に所有接尾辞を付ける方法でした。синең иң яраткан ризыгың となります。яизык に -ың を付けるときに語末の к が г に変わることに注意してください。
模範解答はこの表現になっています。ただし、所有格の代名詞は付けずに、所有接尾辞だけで表現しています。所有格の代名詞は必ずしも必要ないのですね。
疑問詞の「何」は нәрсә なので、Иң яраткан ризыгың нәрсә? で出来上がりです。
ただし、この文での「何」は нинди「どんな」を使ってもよいようです。
Иң яраткан ризыгың нәрсә?
(2) あなたはカザンに来たことを覚えていますか?
「来たことを」は、過去の形動詞を名詞的に使って「覚えている」の目的語とすればよさそうです。「カザンに」は方向格の形にするので、Казанга килгәнегезне で「カザンに来たことを」となります。
кил-「来る」、-гән「過去の形動詞」、-егез「2人称複数の所有接尾辞」、-не「対象格の接尾辞」という構造です。「来た」のは「あなた」なので、2人称複数の所有接尾辞を付けるのを忘れないようにしてください。
「覚えていますか」は、хәтерлә-「覚えている」を現在形にして хәтерли- となって、2人称複数の人称の付属語 -сез と疑問の付属語 -ме を付けて、хәтерлисезме となります。
Казанга килгәнегезне хәтерлисезме?
(3) カザンに来る予定の客らはホテルに住む予定だ。
「来る予定の客」なので、未来の形動詞を使って表わせばよいですね。ほぼ確実に行なわれると考えられる動作ですから、確定未来形と同じ形の -ачак 形の形動詞を使いましょう。
「カザンに来る予定の客らは」は、Казанга киләчәк кунаклар となります。「カザンに」は方向格の接尾辞、「客ら」は複数の接尾辞を付けましょう。
問題文から分かるように、「ホテルに泊まる」は「ホテルに住む」と表現するようです。
「住む予定だ」は確定未来形を使って яшәячәк です。主語は3人称ですから、人称の付属語を付ける必要はありません。複数なので -ләр を付けてもよいのですが、кунаклар「客ら」で主語が複数であることは分かっているので、あえて付ける必要はありませんね。
Казанга киләчәк кунаклар кунакханәдә яшәячәк.
(4) インドには肉を食べない人たちがとても多い。
「インドには」は位置格の形で Һиндстанда でよいですね。
「肉を」は特定の肉ではなく、その直後に動詞「食べる」が置かれるので対象格の接尾辞は不要です。
「食べない人たち」は、現在の形動詞を名詞的に使うことで「~する/しない人」を表してみましょう。
аша-「食べる」に否定の接尾辞 -ма と現在の形動詞 -учы を付けて ашамаучы で「食べない人」です。これで名詞的な意味を表していますから、さらに複数の接尾辞を付けて「食べない人たち」となります。
「とても多い」は、そのまま бик күп です。
Һиндстанда ит ашамаучылар бик күп.
(5) 私はタタールスタンにいたことがありません。
「~したことがない」は、過去の形動詞 -ган を名詞的に使った -ган юк で表すことができます。
「タタールスタンにいたこと」は Татарстанда булган ですが、この動作主は「私」ですね。所有格の形の代名詞と所有接尾辞のどちらか、あるいは、両方を使って動作主を表します。
両方を使うと минем Татарстанда булганым となります。
Минем Татарстанда булганым юк.
(6) 私は仕事に行く予定がある。
「~する予定がある」は、未来の形動詞 -асы を名詞的に使った -асы бар で表すことができます。
「行く予定がある」は бар-「行く」に -асы を付けて、барасы бар ですが、この動作主は「私」ですから、минем барасым бар となります。
「仕事に」は方向格の形で эшкә と表しましょう。
Минем эшкә барасым бар.
(7) 世界は美しい、君がいるから。
後半の「君がいるから」という部分を、形動詞を副詞的に使った表現で表すことができます。
過去の形動詞 -ган に方向格の接尾辞を付けると、「~するので」、「~したので」のような理由を表す表現になります。
「君がいる」は、син бул- と表すことができるので、син булганга で「君がいるから」を表します。この後にさらに күрә を付けても構いません。
このような副詞的な使い方では、動作主を表すために所有接尾辞を付けないのがふつうです。
Дөнья матур, син булганга.
(8) 君は北海道に行きたいかい?
「~したい」は、未来の形動詞 -асы を名詞的に使って、後ろに кил-「来る」を続けることで表現できます。
бар-「行く」に -асы を付けると барасы となります。「行く」という動作を行なう動作主「君」は、所有接尾辞で表すので、барасың で「君が行くこと」です。
後ろに続く кил- はここでは現在形の疑問形になるので、киләме? となります。
ですから全体で、Хоккайдога барасың киләме? となります。はじめに син の所有格 Синең を付けても構いません。
Хоккайдога барасың киләме?
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