白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。
当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。
2024年1月には同じテュルク諸語の『ニューエクスプレスプラス ウズベク語』が発売されるので、この機会にタタール語を一気に学習することにしました。
タタール語チャレンジの3日目は、第3課と第4課です。タタール語の所有に関係する表現を学習します。
タタール語チャレンジの進め方
『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。
全20課を1日に2課ずつ学習を進めて、その様子を記事にしています。
タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。
この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。
白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。
第3課
名詞の所有格(属格)
名詞や代名詞は、文の中の役割によって、いろいろな形の接尾辞が付きます。この役割のことを格といいます。
所有格は、「~の」のように、主に所有者を表します。
名詞を所有格にするには、名詞に -ның / -нең を付けます。
後舌母音 | 前舌母音 |
---|---|
-ның | -нең |
人称代名詞や指示詞の所有格も、同じように接尾辞を付けますが、次の単語は特別な形になります。
人称代名詞 | 指示詞 | ||
---|---|---|---|
主格 | 所有格 | 主格 | 所有格 |
мин | минем | бу | моның |
син | синең | шул | шуның |
ул | аның |
所有接尾辞
「AのB」を表すには、「Aの」を名詞や代名詞の所有格で表すだけでなく、Bの後ろには所有接尾辞を付ける必要があります。
所有接尾辞を付けることによって、何か・誰かに所有されているという意味が付け加わって、Bを限定していることになります。
「AのB」のAが1・2人称の場合は、Bに次の所有接尾辞を付けます。
後舌母音 | 前舌母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 1人称 минем | -(ы)м | -(е)м |
2人称 синең | -(ы)ң | -(е)ң | |
複数 | 1人称 безнең | -(ы)быз | -(е)без |
2人称 сезнең | -(ы)гыз | -(е)гез |
Aが子音で終わる名詞の場合は ( ) の中の母音を付け加えます。母音で終わる名詞の場合は付け加えません。つまり、子音が連続しないようにするわけです。
Aが3人称の場合は、Bに次の所有接尾辞を付けます。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる名詞 | -сы | -се |
子音で終わる名詞 | -ы | -е |
このように、「AのB」という所有関係は、「Aの所有格 + B + 所有接尾辞」のように表すのが基本です。
しかし、Aが1・2人称の場合は、所有接尾辞だけで誰の所有であるかが分かるので、Aを省略して「B + 所有接尾辞」だけで表すことがあります。
また、反対に、人称代名詞がある場合は所有接尾辞を付けずに「Aの所有格 + B」だけで表すこともあります。
接尾辞 -ныкы / -неке
「Aの~」を表す場合には、Aに所有格の接尾辞を付けますが、「Aのもの」のように名詞的に表す場合には、Aの後に -ныкы / -неке という接尾辞を付けます。
ただし、次の人称代名詞や指示詞は、特別な形になります。
人称代名詞 | 指示詞 | ||
---|---|---|---|
主格 | ~のもの | 主格 | ~のもの |
мин | минеке | бу | моныкы |
син | синеке | шул | шуныкы |
ул | аныкы |
複合名詞
「電話」と「番号」という2つの名詞を組み合わせた「電話番号」のような複合名詞の作り方です。
2つの名詞AとBをそのまま並べて、Bには3人称の所有接尾辞を付けて表します。
複合名詞を複数形にする場合は、複数の接尾辞を付けた後に、所有接尾辞を付けます。
複合名詞が、1・2人称の人物の所有物である場合には、1・2人称の所有接尾辞を付けなければなりませんが、その時に、複合飯を作るときに付けた3人称の所有接尾辞を取り除いてから1・2人称の所有接尾辞を付けます。
文章で書くと複雑に感じますが、実際に練習問題を解きながら確認しましょう。
第4課
名詞の位置格(位格)
位置格は、「~で」、「~に」のように、主に場所や時間を表します。
名詞を位置格にするには、名詞に次のような接尾辞を付けます。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音・有声子音で終わる名詞 | -да | -дә |
無声子音で終わる名詞 | -та | -тә |
3人称の所有接尾辞の後に位置格の接尾辞を付ける場合には、所有接尾辞と位置格の接尾辞の間に -н- を入れます。このため、有声子音で終わることになるので、-да / -дә が付きます。
指示詞 бу, шул, ул の位置格は特別な形になり、шушы, теге の後には -н- を入れます。
主格 | 位置格 |
---|---|
бу | монда |
шул | шунда |
ул | анда |
шушы | шушында |
теге | тегендә |
位置格の名詞を述語として使うと、人や物のいる・ある場所を表します。これについては、次の存在文を項を参照してください。
存在文
「~に…がある・いる(ない・いない)」のように、どこかに何かが存在している(いない)状況を表すには、名詞の位置格と、бар「ある・いる」、юк「ない・いない」を組み合わせて使います。
すでに話題になっている物や人がどこにいるかを説明するには、その場所を位置格にして述語として使います。このとき、бар / юк は使いません。否定する場合(ない・いない)は、түгел を述語である位置格の名詞の後に置きます。
所有文
「~は…をもっている(もっていない)」、「~には…がいる(いない)」のように所有関係がある(ない)ことを表すには、「所有者を表す名詞の所有格、所有される物を表す名詞、所有接尾辞、бар / юк」で表します。
これは、日本語話者には以外と難しい構文だと思います。
「Aの所有格 + B + 所有接尾辞」の部分は、「AのB」という所有関係を表す表現です。
ですから、「AがBを所有している」、「BはAの所有物である」という状況が「ある(ない)」と表現することによって、日本語で表せば「AはBをもっている(もっていない)」と表現していることになります。
練習問題
日本語の文からタタール語の文を作る練習問題を通じて、文法をおさらいしましょう。
(1) 彼女の髪は長いです。
「彼女の髪」は、ул「彼女」の所有格 аның に чәч「髪」を続け、さらに、所有者が「彼女」ですから3人称の所有接尾辞を付けて表します。
このような表現の場合、タタール語では「髪」を複数形にしなければならないようです。このため、чәч「髪」に、所有接尾辞と複数の接尾辞の両方を付けなければなりません。
本書の「文法のまとめと補足(p.160)」に、「名詞類(名詞・代名詞・形容詞など)に付く主な接尾辞は、複数・所有・格の接尾辞で、この順番で付きます。」とあります。
したがって「彼女の髪」は、аның чәчләрә となります。чәч「髪」、-ләр「複数の接尾辞」、-е「3人称の所有接尾辞」です。
Аның чәчләре озын.
(2) 君の学校は遠いかい?
これも「君の学校」という所有の表現が重要ですね。
син「君」の所有格は синең という特別な形でした。мәктәп「学校」には、2人称単数 син が所有者であることに対応した所有接尾辞 -(ы)ң / -(е)ң を付ける必要があります。
мәктәп が前舌母音の単語で子音で終わっているので、-ең を付けますが、✕мәктәпең ではいけません。「文字と発音」で説明したように、無声子音 к, п で終わる単語に母音で始まる接尾辞が付くと、г, б になるのでした。
したがって「君の学校」は、синең мәктәбең となります。
また、ерак「遠い」に疑問の付属語が付くと、еракмы となります。
Синең мәктәбең еракмы?
(3) 私は今、日本にいません。
「私」がどこかに存在するか(しないか)を説明する存在文の表現です。
すでに話題になっている物や人の存在場所を表現するには、位置格の名詞を述語に使うのでした。мин「私」という人物は、話し手本人であり、特定された人物ですから、この表現を使います。
存在場所の Япония「日本」に位置格の接尾辞を付けなければなりません。Япония はロシア語からの借用語です。この場合、語末が -ь, -ия, -ие で終わる単語には、基本的に前舌母音の接尾辞を付けます。このため Япоинядә となります。
Мин хәзер Япониядә түгел.
(4) 君は今日、家にいますか?
(3)と同じように、主語の「君」がどこかに存在するか(しないか)を説明する文で、疑問文となっています。
述語として、存在場所である өй「家」を位置格にして、疑問の付属語を付ければよいですね。
өй は前舌母音の単語ですから、接尾辞を前舌母音の形でそろえるだけです。
Син бүген өйдәме?
(5) 私たちの村にはインターネットがありません。
(3)や(4)とは違って、「私たちの村」という場所に、「インターネット」という物が存在する(しない)ことを表現する存在文です。
場所の名詞を位置格にして、存在する(しない)物のあとに бар / юк を置いて表します。
「私たちの」は、без「私たち」に所有格の接尾辞を付けるだけですから безнең です。
авыл「村」には、1人称複数の所有接尾辞を付けて авылыбыз としてもよいですが、人称代名詞の「私たちの」がありますから、そのまま авыл でも大丈夫です。模範解答はこのようになっています。
位置格の接尾辞を付けると авылда となります。
Безнең авылда интернет юк.
(6) あなたは猫を飼っていますか?
この文は「あなたは猫をもっていますか?」と解釈してタタール語に訳しましょう。すると、所有関係を表す文ですから、形の上では「あなたの猫、ありますか?」という語順になります。
「あなたの」は、сез「あなた」の所有格の接尾辞を付けて сезнең です。「猫」は、песи に、所有者が敬称の「あなた」ですから2人称複数の所有接尾辞を付けて表します。
песи は前舌母音の単語で、и [ij] で終わっていますから子音で終わる単語です。ですから所有接尾辞は -егез の形になります。
したがって「あなたの猫」は、сезнең песиегез となります。
「ありますか?」は бармы? ですね。
Сезнең песиегез бармы?
(7) このペンはあなたのですか?
「~のもの」を表す -ныкы / -неке を使った表現です。
「このペン」は、そのまま бу ручка でよいですね。ручка はロシア語からの借用語です。このため、 ч の文字を [ɕ] ではなく [t͡ɕ] と発音します。
「あなたの」は「あなたのもの」の意味ですから、сез「あなた」に -неке を付けて сезнеке となります。
これに疑問の付属語を付けてできあがりです。
Бу ручка сезнекеме?
(8) トゥカイ広場はどこですか?
「トゥカイ広場」という既に話題になっている物のある場所を尋ねる文です。場所を表す単語を位置格にして述語として使えばよいのですね。
「トゥカイ広場」は複合名詞ですから、мәйдан「広場」には3人称の所有接尾辞を付けて表します。мәйдан は子音で終わる単語なので -ы / -е を付けます。
しかし мәйдан は、前舌母音と後舌母音の両方が使われた単語ですね。どうやらペルシア語起源の単語のようです。最後の母音が а で後舌母音ですから、-ы を付けておきましょう。
第2課では疑問詞として、кайда「どこで」と кая「どこへ」を学習しました。それぞれ、「どこ」の位置格と方向格(第6課で学習します)であると考えればよいです。
ここでは位置格の形が必要ですから、кайда を使います。第2課には「どこで」としか書かれていませんが、「どこで、どこに」の意味であると考えればよいですね。
疑問詞のある疑問文ですから、疑問の付属語を付けてはいけません。
Тукай мәйданы кайда?
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