ロシア語の否定代名詞と否定副詞について説明します。
ロシア語の否定代名詞には大きくわけて、никто, ничто のように ни で始まる代名詞と、некого, нечего の ように не で始まる代名詞があります。
ни で始まる否定代名詞は、否定文に使われて、その否定の動作を強調します。一方、не で始まる否定代名詞は、「~するための人や物がいない、ない」という存在の否定によって動作を否定します。
どちらも日本語にはない考え方なので、多くの例文を通じて、少しずつ慣れていくのがよいでしょう。
代名詞とは
代名詞は、文の中で同じ名詞を繰り返して使わずに、名詞の代わりに使う単語です。その名詞が表す人や物・事を受けたり、指し示したりします。
代名詞にはいろいろな分類方法がありますが、ロシア語の代名詞は、次の9つに分類されることが多いようです。
このほかに、相互代名詞を分類に加えることがあります。このサイトでは、相互代名詞を定代名詞と合わせて説明します。また、再帰代名詞は人称代名詞と合わせて説明します。
代名詞の基本的な働きは、名詞の代わりとなることですが、実際には、形容詞の代わりとなったり、数詞や数量詞の代わりとして使われる単語を代名詞に含めて考えることもあります。
ここでは、名詞の代わりをする単語のほか、形容詞の代わりをする単語も代名詞に含めて考えます。数詞や数量詞の代わりをする単語は、数詞・数量詞の仲間として扱います。
数詞や数量詞の代わりをする単語の例として、сколько「いくつの」があります。この単語を疑問代名詞として扱う場合もありますが、ここでは疑問数量詞として扱います。あとに続く単語が生格形になるなど、数量詞の性質を強く持っているからです。
否定代名詞とは
代名詞は基本的に、何らかの名詞を指し示したり、既に話題になっている名詞を受けたりすることばです。
この対象となる名詞の存在を否定する意味を表わす代名詞が否定代名詞(ひていだいめいし)です。
ロシア語の否定代名詞には、大きく分けて、疑問詞の前に ни を付けて作られる否定代名詞、не を付けて作られる否定代名詞の2種類があります。
ここでは、疑問詞代名詞 кто と что をもとにして作られる否定代名詞を中心に説明します。
никто, ничто
否定代名詞 никто や ничто は、「誰も(~ない)」、「何も(~ない)」のように、否定の意味を強調する代名詞です。
никто, ничто は、кто や что の部分だけが疑問代名詞と同じように格変化して、ни の部分は変化しません。また、ни の後にハイフン( – )を書かないので注意してください。
никто | ничто | |
---|---|---|
主格 | никто | ничто |
対格 | никого | ни … что |
生格 | никого | ничего |
前置格 | ни о ком | ни о чём |
与格 | никому | ничему |
造格 | никем | ничем |
никто, ничто が前置詞と一緒に使われるときには、前置詞は ни と疑問詞の間に入り込みます。
前置格は、必ず前置詞と一緒に使われますから、上の表では代表して前置詞 о を付けた形で書いてあります。
ここで、対格形に注意してください。никто は人を表わすので、対格形は生格形と同じ никого という形です。動詞の直接目的語になると否定生格形の никого になるので、結局、生格形になります。対格形を要求する前置詞と一緒に使われると ни … кого となります。
一方で ничто は事や物を表わすので、対格形は主格形と同じ形です。しかし、動詞の直接目的語になると否定生格形の ничего となるので ничто の形は現れません。対格形を要求する前置詞と一緒に使われた場合だけ ни … что という形になります。
いくつか例を挙げます。
ここで、これらの例文はすべて否定文であることに注意してください。
никто や ничто 自体が否定の意味を持っていますが、文には否定を表わす не や нет が必要です。
英語では、Nobody knows about it. のように、否定代名詞(英語ではふつう不定代名詞に分類されます)のほかには、not のような否定を表わす単語を使いません。ロシア語の Об этом никто не знает. と比べてみてください。
副詞としての ничего
話しことばでは、不定代名詞の ничто の生格形 ничего は、副詞としても使われます。「悪くなく」、「まあまあ」のような意味合いです。
このとき、再帰代名詞の себя が変化した себе と一緒に使われることが多いようです。
不定代名詞の ничто は、必ず否定文で使われますが、副詞として使われる場合は、否定文である必要はありません。
そのほか、文の述語として、「悪くない」、「大丈夫だ」、「かまわない」のような意味で使われます。
некого, нечего
否定代名詞 некого や нечего は、その後に動詞の不定形を続けて、「~するための~がいない、ない」という意味を表わします。もう少し具体的には、「~する必要があるが、対象となる人や物がいない、ないので、できない」ということです。
некого, нечего は、кого や чего の部分だけが疑問代名詞 кто や что と同じように格変化して、не の部分は変化しません。また、не の部分にアクセントがおかれます。
格変化は次の表のようになります。格変化には主格形がありません。また、не の後にハイフン( – )は書かれませんので注意してください。
никого | ничего | |
---|---|---|
主格 | ||
対格 | некого | не … что |
生格 | некого | нечего |
前置格 | не о ком | не о чем |
与格 | некому | нечему |
造格 | некем | нечем |
некого, нечего が前置詞と一緒に使われるときには、前置詞は не と疑問詞の間に入り込みます。前置格は必ず前置詞と一緒に使われますから、上の表では代表して前置詞 о を付けた形で書いてあります。
нечего の前置格は не にアクセントがおかれて、что の変化形の部分にアクセントはおかれません。このため、✕не о чём ではなく не о чем となっていることにも注意してください。
ここで、対格形に注意してください。некого は人を表わすので、対格形は生格形と同じ некого という形です。動詞の直接目的語になると некого になり、これは否定生格形だと解釈しても同じことです。対格を要求する前置詞と一緒に使われると не … кого となります。
一方で нечто は事や物を表わすので、対格形は主格形と同じ形です。しかし、動詞の直接目的語になると否定生格形の нечего となるので нечто の形は現れません。対格形を要求する前置詞と一緒に使われた場合だけ не … что という形になります。
いくつか例を挙げます。
некого, нечего を使った文では、никто, ничто を使った文とは違って、否定代名詞のほかに否定の意味を表わす не や нет を使う必要はありません。
また、некого, нечего を使った文には、主格の主語がありません。このような文を無人称文(むにんしょうぶん)といいます。
無人称文では、時制が過去の場合は было を、未来の場合は будет を加えます。
また、無人称文で、動詞が表わす動作・行為の主体(誰が動作を行なうのか)を表わすには、与格形の名詞・代名詞を使います。
さらに、動作・行為の主体が存在しないことを強調する場合には、некого, нечего が与格形で使われます。
1つめの例では、некого の与格形 некому を使って、「昼食を作る必要があるが、作る人・作れる人がいない、だから作れない」という意味を表わしています。
一方、2つめの例では、никто が主語として使われて、「昼食を作っていない」という否定の状態を「誰も作っていない」のように強調して表わしています。この場合は、昼食を作る人・作れる人はいるかもしれません。
そのほか、「どういたしまして」という意味で、Не за что. が熟語として使われます。これは、対格形を要求する前置詞 за「~のことで、~のために」と一緒に使われて、нечего が対格形の не за что に変化したものと考えられます。「(感謝するようなことは)何もない」といった意味合いです。
形の上で некого, нечего の主格形にあたる некто, нечто という単語があります。これらは否定代名詞ではなく、不定代名詞で、「誰か~な人」、「何か~なもの、こと」という、まったく違う意味を表わします。
その他の否定代名詞と否定副詞
ここでは、кто, что 以外の疑問代名詞をもとにして作られた否定代名詞と、疑問副詞をもとにして作られた否定副詞を簡単に説明します。
その他の否定代名詞
次の表のように、кто, что のほかに、какой, чей をもとにした否定代名詞 никакой「どんな~も」、ничей「誰の~も」があります。空欄は、そのような単語が存在しないか、まれにしか使われない単語です。
疑問代名詞 | 否定代名詞 | |
---|---|---|
ни- | не- | |
кто | никто | некого |
что | ничто | нечего |
какой | никакой | |
чей | ничей |
いくつか例を挙げます。
1つめの例では、никакой の複数生格形 никаких が、2つめの例では、ничей の複数主格形 ничьи が使われています。
否定副詞
疑問代名詞ではなく、где のような疑問副詞から作られる否定副詞もあります。
比較的よく使われる否定副詞は次の表の通りです。空欄は、そのような単語が存在しないか、まれにしか使われない単語です。
否定代名詞と同じように、ни の付いた単語は、どのような場所や時間、方法においても「~しない」のように否定の意味を強調し、не の付いた単語は、何かを行なうための場所や時間が存在しないことを意味します。
疑問副詞 | 否定副詞 | |
---|---|---|
ни- | не- | |
где | нигде | негде |
куда | никуда | некуда |
откуда | ниоткуда | неоткуда |
когда | никогда | некогда |
как | никак |
ひとつひとつ、例文で確認してみましょう。
ひとつひとつの例文と和訳を見比べて、否定副詞の意味合いをじっくりと確かめてみてください。
この中で次の点に注意してください。
никогда は、「どんな時も」の意味ですが、例文のように過去の事柄を表わす場合は「一度も(~ない)」のような意味になります。
また никак は、「どのような方法でも」という意味です。日本語では「どうしても(~ない)」と訳すとよい場合が多いでしょう。
まとめ
ロシア語の否定代名詞と否定副詞について説明しました。
ロシア語の否定代名詞には大きくわけて、никто, ничто のように ни で始まる代名詞と、некого, нечего のように не で始まる代名詞があります。
ни で始まる否定代名詞は、否定文に使われて、その否定の動作を強調します。一方、не の付く否定代名詞は、「~するための人や物がいない、ない」という存在の否定によって動作を否定します。
どちらも日本語にはない考え方なので、多くの例文を通じて、少しずつ慣れていくのがよいでしょう。

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