ロシア語の形容詞の短語尾形の変化【初級ロシア語】

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ロシア語の形容詞は、長語尾形と短語尾形と呼ばれる2つの形に分類することができます。このうち、短語尾形の変化について説明します。

形容詞の短語尾形は、関係する名詞の性・数によって語尾の形が変化します。格によって形は変化しません。

音素で考えると、硬変化型、軟変化型の2つの変化パターンしかないため、変化はシンプルです。しかし、アクセントが移動したり、男性形で出没母音が現われることがあるため、ひとつひとつ辞書で変化を確認する必要があります。

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形容詞の概要

形容詞は、人や物、事の性質や特徴、関係性を表す単語です。名詞を修飾したり、述語として使われたりします。

ロシア語の形容詞は、その表す意味に着目すると、性質形容詞、関係形容詞、所有形容詞に分類することができます。

形容詞の分類
  • 性質形容詞:人や物、事の性質や特徴を表す
  • 関係形容詞:人や物、事とのさまざまな関係性を表す
  • 所有形容詞:人や物、事の所属や所有関係を表す

また、形容詞の形や変化の仕方に着目すると、長語尾形と短語尾形と呼ばれる2つの形に分類することができます。

このうち、ここで説明する短語尾形には、次のような特徴があります。

形容詞の短語尾形の特徴
  • 性質形容詞だけが短語尾形をもつ
  • 名詞の修飾語としては使えず、述語として使う

形容詞は、形の変わらない語幹と、形が変化する語尾で成り立っています。

ロシア語の形容詞の短語尾形は、語尾が性・数によって形を変えます。この変化を曲用(きょくよう)といいますが、ここでは、一般的によく使われるように「変化」と呼ぶことにします。

変化のしかたに着目すると、短語尾形の変化には、次のような特徴があります。

形容詞の短語尾形の変化の特徴
  • 関係する名詞の性(せい)によって形が変わる:男性、中性、女性
  • 関係する名詞の数(すう)によって形が変わる:単数、複数
  • 格(かく)によって形は変わらない

関係する名詞が複数形のときは、その名詞が男性・中性・女性名詞のどれであっても、形容詞は同じ形になります。

このため、性と数を同列に扱って、「関係する名詞の性・数によって形が変わる:男性、中性、女性、複数」と表現することもあります。

形容詞の短語尾形の語尾は、基本的に次のようになっています。

音素による形容詞の短語尾形の変化の語尾
単数複数
男性中性女性
硬変化型-∅-/o/-/a/-/i/
軟変化型-∅-/e/-/a/-/i/

この変化を基本として、形容詞の語幹末の子音によって、多少のバリエーションがあります。また、実際に形容詞の変化の綴りを考えるときには、次の2点を考慮する必要があります。

  • 正書法の規則を適用する
  • 語幹末が /ʒ, ʃ, ts/(文字の綴りで ж, ш, ц)の形容詞は軟変化型として考える

また、形容詞の短語尾形の変化を考えるときには、いくつか注意しなければならない点があります。

  • 変化によって、アクセントの位置が移動することがある
  • 男性形に、出没母音が現われることがある

この後の説明で、単語の中の赤字の母音字は、その母音にアクセントがおかれることを表しています。

形容詞の短語尾形の変化

形容詞の短語尾形の語尾は、硬変化型と軟変化型の2つの変化タイプに大きく分けることができます。

①硬変化型

硬変化型の語尾を、音(音素)でまとめると次の表のようになります。

音素による形容詞の短語尾形の変化の語尾
(硬変化型)
単数複数
男性中性女性
-∅-/o/-/a/-/i/

このように、男性形には語尾がありません。

この硬変化型の変化を、文字の綴りで考えると、次の2つのタイプに分かれます。

  • 基本の形
  • 語幹末が г, к, х のときの形

基本の形

形容詞の語幹末が硬子音で終わるとき、変化語尾の文字の綴りは次の表のようになります。硬子音の後の /o, a, i/ はそれぞれ о, а, ы と綴られるからです。

文字の綴りによる形容詞の短語尾形の変化の語尾
(硬変化型(基本))
単数複数
男性中性女性
(なし)
注意

ここでの硬子音には、/ɡ, k, x, ʒ, ʃ, ts/(文字の綴りで г, к, х, ж, ш, ц)は含まれません。

語幹末が /ɡ, k, x/(文字の綴りで г, к, х)のときは、正書法の規則によって一部の綴りが変わります。

また、/ʒ, ʃ, ts/(文字の綴りで ж, ш, ц)のときは、軟変化型の変化として取り扱います。

硬変化型の例として、красивый /kraˈsʲivij/「美しい」の例を挙げます。

красивыйの短語尾形の変化
(硬変化型(基本))
単数複数
男性中性女性
красивкрасивокрасивакрасивы

語幹末が г, к, х のときの形

語幹末が /ɡ, k, x/(文字の綴りで г, к, х)で終わるときは、正書法の規則によって、後ろに ы を綴ることができず、代わりに и を綴らなければなりません。

このため、複数形の語尾の綴りが ではなく になります。

文字の綴りによる形容詞の短語尾形の変化の語尾
(硬変化型(г, к, х))
単数複数
男性中性女性
(なし)

例として、дорогой /doroˈɡoj/「高価な」の例を挙げます。

дорогойの短語尾形の変化
(硬子音型(г, к, х))
単数複数
男性中性女性
дорогдорогодорогадороги

②軟変化型

軟変化型の語尾を、音(音素)でまとめると次の表のようになります。

音素による形容詞の短語尾形の変化の語尾
(軟変化型)
単数複数
男性中性女性
-∅-/e/-/a/-/i/

硬変化型と違うのは、中性形の語尾だけです。硬変化型の -/o/-/e/ となっています。

補足

ロシア語では基本的に、軟子音の直後にアクセントのない /o/ が来ることはなく、その場合 /e/ に変わります。このため、硬変化型の -/o/--/e/- に置き換わっているのです。

ですから、硬変化型と軟変化型は、本質的には同じ変化パターンであるといえます。

軟変化型の変化を、文字の綴りで考えると、次の3つのタイプに分かれます。

  • 基本の形
  • 語幹末が ж, ч, ш, щ のときの形
  • 語幹末が ц のときの形

基本の形

形容詞の語幹末が軟子音で終わるとき、変化語尾の文字の綴りは次の表のようになります。軟子音の後の /e, a, i/ はそれぞれ е, я, и と綴られるからです。

文字の綴りによる形容詞の短語尾形の変化の語尾
(軟変化型(基本))
単数複数
男性中性女性

男性形の は語尾ではなく、語幹末の子音が軟子音であることを表しています。

注意

ここでの軟子音には、/tɕ, ɕː/(文字の綴りで ч, щ)は含まれません。正書法の規則によって一部の綴りが変わるので、次の項で説明します。

軟変化型の例として、синий /ˈsʲinʲij/「青い、紺色の」の例を挙げます。

синийの短語尾形の変化
(軟変化型(基本))
単数複数
男性中性女性
синьсинесинясини

語幹末が ж, ч, ш, щ のときの形

語幹末が /ʒ, ʃ/(文字の綴りで ж, ш)の形容詞は、軟変化型として取り扱います。

そして、軟子音の /tɕ, ɕː/(文字の綴りで ч, щ)を含めて、形容詞の語幹末が /ʒ, tɕ, ʃ, ɕː/(文字の綴りで ж, ч, ш, щ)のときは、 正書法の規則によって、一部の綴りが変わります。

ж, ч, ш, щ の後に я, ы を綴ることができず、代わりに а, и が綴られるからです。

このため、変化語尾の文字の綴りは次の表のようになります。軟変化型の基本の形と違うところに色を付けてあります。

文字の綴りによる形容詞の短語尾形の変化の語尾
(軟変化型(ж, ч, ш, щ))
単数複数
男性中性女性
(なし)

この変化では、男性形に を付けないので注意してください。文字 ж, ч, ш, щ は、後ろに ь を付けても付けなくても発音は変わらず、[ʒ, t͡ɕ, ʃˠ, ɕː] です。

例として、могучий /moˈɡutɕij/「強力な」の例を挙げます。

могучийの短語尾形の変化
(軟変化型(ж, ч, ш, щ))
単数複数
男性中性女性
могучмогучемогучамогучи

また、この変化タイプでは、中性形の語尾 -/e/(文字の綴りで )にアクセントがある場合は、-/o/(文字の綴りで )になります。

例として、хороший /xoˈroʃij/「よい」の例を挙げます。

хорошийの短語尾形の変化
(軟変化型(ж, ч, ш, щ))
単数複数
男性中性女性
хорошхорошохорошахороши

語幹末が ц のときの形

語幹末が /ts/(文字の綴りで ц)の形容詞は、軟変化型として取り扱います。

形容詞の語幹末が /ts/(文字の綴りで ц)のときは、正書法の規則によって、一部の綴りが変わります。

ц の後に я を綴ることができず、代わりに а が綴られるからです。ж, ч, ш, щ とは違って、ц の後に ы は綴ることができます。

このため、変化語尾の文字の綴りは次の表のようになります。軟変化型の基本の形と違うところに色を付けてあります。

文字の綴りによる形容詞の短語尾形の変化の語尾
(軟変化型(ц))
単数複数
男性中性女性
(なし)

この変化タイプの形容詞はほとんどありませんが、例として、куцый /ˈkutsij/「尾の短い」の例を挙げます。

куцыйの短語尾形の変化
(軟変化型(ц))
単数複数
男性中性女性
куцкуцекуцакуцы

形容詞の短語尾形の出没母音

形容詞の短語尾形男性形には、語尾がありません。このため、語幹末に子音が連続している形容詞の場合、単語の末尾に子音が連続することになります。

このような単語の一部では、語末の2つの子音の間に母音 -/o/--/e/-(文字の綴りでは -о--е-)が挿入されることがあります。これを出没母音といいます。

2つの子音のうち、1つめの子音が硬子音であれば出没母音は -/o/-(文字の綴りで -о-)となり、軟子音(/ʒ, ʃ/(文字の綴りで ж, ш)を含みます)であれば -/e/-(文字の綴りで -е-)となるのが原則です。

しかし、例外もたくさんあるため、ひとつひとつ辞書で確認する必要があります。

  • крепкий /ˈkrʲepkʲij/крепок /ˈkrʲepok/ 丈夫な
  • свободный /svoˈbodnij/свободен /svoˈbodʲen/ 自由な、暇な
  • больной /bolʲˈnoj/болен /ˈbolʲen/ 病気の
補足

例外の1つのタイプとして、2つめの子音が、名詞から形容詞を作る接尾辞 /n/(文字の綴りで н)のときが挙げられます。この場合、出没母音は -/e/-(文字の綴りで -е-)となることが多くあります。

補足

出没母音は、共通スラヴ語時代の弱い母音 /ŭ/, /ĭ/ に由来します。その後の歴史の中でこれらの母音は、その前後にどのような音が来るかによって、消滅したり、/o/, /e/(場合によっては /i/)になったりしました。

形容詞の短語尾形のアクセント

形容詞の短語尾形は、性・数によって変化したときに、アクセントの位置が移動して、語幹にアクセントが置かれたり、語尾にアクセントが置かれたりすることがあります。

アクセントが移動するかどうかや、どの変化形でどの位置にアクセントが置かれるかには、法則がありません。このため、ひとつひとつ辞書を確認する必要があります。

補足

形容詞の長語尾形は、それぞれの単語でアクセントの位置が決まっていて、性・数・格変化によって位置が移動することはありません。

短語尾形のアクセントの移動パターンは、主に次のようなものです。

すべて語幹にアクセント

男性形、中性形、女性形、複数形のすべてで、語幹にアクセントのある単語です。いくつか例を挙げます。

男性中性女性複数
красивый
「美しい」
красивкрасивокрасивакрасивы
могучий
「強力な」
могучмогучемогучамогучи

女性形は語尾、それ以外は語幹にアクセント

男性形、中性形、複数形は語幹にアクセントがあって、女性形だけ語尾にアクセントが移動する単語があります。いくつか例を挙げます。

男性中性女性複数
дорогой
「高価な」
дорогдорогодорогадороги
синий
「青い、紺色の」
синьсинесинясини

このタイプの形容詞の中には、複数形で語尾にアクセントを置く発音も許される単語が増えているようです。

男性中性女性複数
вкусный
「おいしい」
вкусенвкусновкуснавкусны
または
вкусны
ясный
「明瞭な」
ясеняснояснаясны
または
ясны

男性形は語幹、それ以外は語尾にアクセント

男性形は語幹にアクセントがあって、それ以外の中性形、女性形、複数形は語尾にアクセントがある単語もあります。

男性中性女性複数
хороший
「よい」
хорошхорошохорошахороши
тяжёлый
「重い」
тяжёлтяжелотяжелатяжелы

тяжёлый「重い」では、長語尾形や短語尾男性形の語幹の ё が、短語尾中性形、女性形、複数形ではアクセントがなくなって е に変化していることにも注意してください。

補足

短語尾男性形には、そもそも語尾がありません。このため、短語尾形のすべての形で、語尾にアクセントがあると考えることもできます。男性形には語尾がないため、直前の語幹の音節にアクセントが移っていると考えるのです。

特殊な短語尾形

短語尾形しかない形容詞

長語尾形が存在せず、短語尾形しかない形容詞があります。

男性中性女性複数
「うれしい」радрадорадарады
「~しなければならない、
~するはずだ」
должендолжнодолжнадолжны

他の形容詞の短語尾形を流用する形容詞

большой /bolʲˈʃoj/「大きい」の短語尾形は、великий /vʲeˈlʲikʲij/「偉大な」の短語尾形を流用します。

同様に、маленький /ˈmalʲenʲkʲij/「小さい」の短語尾形は、малый /ˈmalij/「小さい」の短語尾形を流用します。

男性中性女性複数
большой
「大きい」
великвеликовеликавелики
маленький
「小さい」
малмаломаламалы

末尾が -енный の形容詞

末尾が -/ennij/(文字の綴りで -енный)の形容詞は、次のように変化するのが基本です。男性形では、語幹末の二つの н の間に出没母音が現われます。

男性中性女性複数
временный
「臨時の」
времененвременновременнавременны

しかし、男性形で、二重子音の -/nn/- があたかも単子音 -/n/- であるかのように変化する単語があります。この場合、子音が連続していないため、出没母音は現われません。

男性中性女性複数
блаженный
「至福の」
блаженблаженноблаженнаблаженны

また、両方の変化形が許されている単語もあります。

男性中性女性複数
медленный
「ゆっくりした」
медлен
または
медленен
медленномедленнамедленны

まとめ

形容詞の短語尾形の変化について説明しました。

形容詞の短語尾形は、関係する名詞の性・数によって変化しますが、格による変化はしません。

性・数による変化語尾を音素によって表すと、次のようになります。

音素による形容詞の短語尾形の変化の語尾
単数複数
男性中性女性
硬子音型-∅-/o/-/a/-/i/
軟子音型-∅-/e/-/a/-/i/

形容詞の短語尾形は、性・数による変化によって、アクセントの位置が移動する単語があります。また、男性形では、出没母音が現われることがあります。

アクセントの移動や出没母音が現われるかどうかに、法則はありません。このため、ひとつひとつ辞書を確認する必要があります。

参考文献
佐藤 純一(著)
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匹田 剛(著)
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