ロシア語の代名詞の中で最も基本となる8つの人称代名詞について説明します。また、再帰代名詞についても、あわせて説明します。
人称代名詞は、ロシア語を使う上で必須の単語です。次の点に特に注意して、格変化を含めて確実に覚えるようにしましょう。
代名詞とは
代名詞は、文の中で同じ名詞を繰り返して使わずに、名詞の代わりに使う単語です。その名詞が表す人や物・事を受けたり、指し示したりします。
代名詞にはいろいろな分類方法がありますが、ロシア語の代名詞は、次の9つに分類されることが多いようです。
このほかに、相互代名詞を分類に加えることがあります。このサイトでは、相互代名詞を定代名詞と合わせて説明します。また、再帰代名詞は人称代名詞と合わせて説明します。
代名詞の基本的な働きは、名詞の代わりとなることですが、実際には、形容詞の代わりとなったり、数詞や数量詞の代わりとして使われる単語を代名詞に含めて考えることもあります。
ここでは、名詞の代わりをする単語のほか、形容詞の代わりをする単語も代名詞に含めて考えます。数詞や数量詞の代わりをする単語は、数詞・数量詞の仲間として扱います。
数詞や数量詞の代わりをする単語の例として、сколько「いくつの」があります。この単語を疑問代名詞として扱う場合もありますが、ここでは疑問数量詞として扱います。あとに続く単語が生格形になるなど、数量詞の性質を強く持っているからです。
人称代名詞とは
言語の中に登場する人や物・事を、話し手、聞き手、それ以外に分ける区別のことを「人称(にんしょう)」と言います。
話し手を1人称、聞き手を2人称、それ以外を3人称と呼んで区別します。
文の中で、人や物・事を表すのは名詞の役割です。その名詞を何度も繰り返すことなく言い表すための単語が代名詞で、その基本となるのが人称代名詞(にんしょうだいめいし)です。
言い表す人や物・事の人称によって違う形を使い分けるので、人称代名詞と呼ばれます。
ロシア語の人称代名詞は、次の表のように8つあります。
単数 | 複数 | ||
---|---|---|---|
1人称 | я | мы | |
2人称 | ты | вы | |
3人称 | 男性 | он | они |
中性 | оно | ||
女性 | она |
人称の違いだけでなく、単数か複数かという数(すう)の違いによっても、それぞれ違う形の人称代名詞を使います。
さらに、3人称単数の人や物・事を表すには、それが男性名詞か、中性名詞か、女性名詞かという性の違いによっても、代名詞を使い分けます。
このため、全部で8種類の人称代名詞があります。
厳密には、1、2人称の人称代名詞 я, ты, мы, вы はそれぞれ別の単語で、3人称の人称代名詞は、1つの代名詞 он が性と数によって形を変えていると考えます。
人称代名詞の格変化
人称代名詞は、名詞の役割をするため、名詞と同じように格変化します。しかし、格変化のしかた(語尾)は、名詞とは違う形です。
名詞の対格形は、活動体名詞は生格形と、不活動体名詞は主格形と同じ形でした。
しかし、人称代名詞の対格形は必ず生格形と同じ形です。代名詞が表している対象が物・事のような不活動体であっても、対格形は生格形と同じ形であることに注意してください。
1・2人称の人称代名詞の格変化
1人称と2人称の人称代名詞は、それぞれの単数どうし(я と ты)、複数どうし(мы と вы)が、似たような格変化をします。
似たような変化をする代名詞を並べて表にすると、次のようになります。
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
1人称 | 2人称 | 1人称 | 2人称 | |
主格 | я | ты | мы | вы |
対格 | меня | тебя | нас | вас |
生格 | меня | тебя | нас | вас |
前置格 | мне | тебе | нас | вас |
与格 | мне | тебе | нам | вам |
造格 | мной | тобой | нами | вами |
人称代名詞の対格は、生格と同じ形です(меня, тебя, нас, вас)。
また、単数では前置格と与格が同じ形(мне, тебе)、複数では対格と生格、前置格が同じ形(нас, вас)であることを確認してください。
1人称単数の前置格、与格 мне、造格 мной について
я と ты の格変化は似ているのですが、1人称単数の前置格と与格は、✕мене ではなく мне のように、はじめの音節の е が取り除かれるので注意してください。2人称単数は、そのまま тебе です。
同じように、1人称単数の造格は、✕моной ではなく мной のように、はじめの音節の о が取り除かれます。2人称単数は тобой です。
この мне や мной が、子音で終わる前置詞の後に置かれる場合、前置詞が -о の付いた形に変わります。
また、мне が、前置詞 о の後に置かれる場合、前置詞 о は обо という形になります。
1・2人称の人称代名詞は4つだけなので、形の変化はまるごと覚えてしまうのが近道です。
ここでは、念のために、語幹と語尾がどのように変化しているかを発音(音素)によって示します。
単数 | 複数 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
語幹 | 語尾 | 語幹 | 語尾 | |||
1人称 | 2人称 | 1人称 | 2人称 | |||
主格 | /ja/- | /ti/- | -∅ | /m/- | /v/- | -/i/ |
対格 | /mʲenʲ/- | /tʲebʲ/- | -/a/ | /n/- | /v/- | -/as/ |
生格 | /mʲenʲ/- | /tʲebʲ/- | -/a/ | /n/- | /v/- | -/as/ |
前置格 | /mnʲ/- | /tʲebʲ/- | -/e/ | /n/- | /v/- | -/as/ |
与格 | /mnʲ/- | /tʲebʲ/- | -/e/ | /n/- | /v/- | -/am/ |
造格 | /mn/- | /tob/- | -/oj/ | /n/- | /v/- | -/amʲi/ |
単数と複数のそれぞれで、1人称と2人称の格変化語尾が同じであることが分かると思います。
3人称の人称代名詞の格変化
3人称の人称代名詞は、単数主格では男性名詞、中性名詞、女性名詞を表す形が、он, оно, она のように異なります。
しかし、主格以外の格では、男性名詞と中性名詞を表す形が同じになります。
複数形を含めた格変化の全体は、次の表のようになります。
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 中性 | 女性 | ||
主格 | он | оно | она | они |
対格 | его (него) |
её (неё) |
их (них) |
|
生格 | его (него) |
её (неё) |
их (них) |
|
前置格 | нём | ней | них | |
与格 | ему (нему) |
ей (ней) |
им (ним) |
|
造格 | им (ним) |
ей (ней) |
ими (ними) |
この表のような格変化のパターンは、形容詞の性・数・格変化と似ていますが、わずかに違う部分もあります。ですから、代名詞の変化は、形容詞の変化とは別のものとして覚える方が効率的です。
3人称の人称代名詞を音素によって表すと、次の表のようになります。
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 中性 | 女性 | ||
主格 | /on/-∅ | /on/-/o/ | /on/-/a/ | /onʲ/-/i/ |
対格 | /j/-/evo/ | /j/-/ejo/ | /ix/ (/j/-/ix/) | |
生格 | /j/-/evo/ | /j/-/ejo/ | /ix/ (/j/-/ix/) | |
前置格 | /nʲ/-/om/ | /nʲ/-/ej/ | /nʲ/-/ix/ | |
与格 | /j/-/emu/ | /j/-/ej/ | /im/ (/j/-/im/) | |
造格 | /im/ (/j/-/im/) | /j/-/ej/ | /imʲi/ (/j/-/imʲi/) |
主格は語幹が /on/ で、名詞のような語尾が付いています。
主格以外は語幹が /j/ で、形容詞の長語尾形のような語尾が付いて格変化しているように見えます(/ji/ は /i/ のように短くなると考えます)。
しかし、複数主格の語幹は /on/ ではなく /onʲ/ になっていますし、女性対格と生格の語尾が、形容詞の語尾から予想される -/uju/ や -/ej/ ではなく、-/ejo/ になっているなど、細かな違いもあります。
ですから、形容詞の語尾と似ていますが、違うものとして考える方がよいのです。
3人称の人称代名詞が前置詞の後に置かれる場合
3人称の人称代名詞は、前置詞の後に置かれる場合、代名詞の前に н- を付けます。
前置格だけでなく、主格以外の格はすべて、前置詞の後に置かれる可能性があります。
先ほど示した格変化の表では、前置格の形は、必ず前置詞の後に置かれるので、н- を付けた形で載せてあります。主格と前置格以外の形には、( ) の中に н- を付けた形を載せてあります。
文字の綴りでは、人称代名詞の前に н- を付け加えた形となります。
しかし、発音(音素)で考えると、代名詞のはじめの /j/- を /nʲ/- に置き換えた形となると考えなければなりません。
たとえば、男性対格・生格の場合、/jevo/ が /nʲevo/ に変わるのですからね。
人称代名詞の使い方の注意点
人称代名詞の生格形について
名詞の生格は、ほかの名詞に対して「~の」のように所有の意味を表すことができました。しかし、人称代名詞の生格は、所有の意味を表しません。所有の意味は、мой, твой などの所有代名詞を使って表します。
では、どのような場合に人称代名詞の生格形を使うかというと、生格形を要求する前置詞や動詞、形容詞と一緒に使うなど、文の中で生格形が必要とされるときです。
1人称の я と мы の使い方
1人称単数の人称代名詞 я は、話し手本人を表します。書くときには、文頭に置かれるとき以外は、大文字にする必要はありません。
1人称複数は、話し手本人と、それ以外の人をまとめて表す人称です。「それ以外の人」には、聞き手である「あなた」を含む場合も、含まない場合もありますが、どちらも мы で表すことができます。
聞き手を含む1人称複数を「包括形」、含まない1人称複数を「除外形」と呼ぶことがあります。
言語の中には、包括形と除外形の1人称複数の人称代名詞を、区別して使い分けるものがあります。例えば、中国語では、包括形が「咱们」、除外形が「我们」と使い分けます。
「誰かと私」の意味を表すときには、注意が必要です。
例えば、「あなたと私」の場合、вы и я や я и вы とは言わずに、мы с вами と言います。直訳すると「あなたと一緒の私たち」、「あなたととともにある私たち」です。前置詞 с の後の вами は、вы の造格形です。
同じように、мы с тобой「きみと私」、мы с ними「彼と私」 のように表します。
2人称の ты と вы の使い方
先ほどの表で示したように、2人称の人称代名詞は、「文法的」には ты が単数で、вы が複数です。ですから、ты が「あなた」、вы が「あなた方」の意味を表すのが基本です。
しかし、これらの代名詞には、「親称(しんしょう)」と「敬称(けいしょう)」という、話し手と聞き手との間の親しさ・親密さによる使い分けがあります。
親称の代名詞は、相手と距離を置かずに親しく話しかけてよい人や話しかけるべき人に対して使います。家族や友人、年下や同世代の親しい人、また、神に対しても使います。
一方、敬称の代名詞は、相手との間に心理的な距離を置いて話しかける人に対して使います。目上の人や親しくない大人に対して使います。敬称は、必ずしも尊敬の気持ちを表すわけではありません。
ты と вы の使い分けを表にすると次のようになります。
単数 | 複数 | |
---|---|---|
親称 | ты | вы |
敬称 | вы | вы |
親称の単数には ты、複数には вы を使い、敬称では単数でも複数でも вы を使います。ですから вы は、敬称・単数、親称・複数、敬称・複数の3つの意味を持つことになります。
主語が вы の場合、動詞の形に注意が必要です。
вы の表す人が単数の場合(敬称・単数)、述語の動詞は複数形になります。また、述語が形容詞のときは、長語尾形ならば単数形になって、вы の表す人の性によって、単数男性形か単数女性形になります。短語尾形ならば複数形になります。述語が名詞の場合は、単数形です。
вы の表す人が複数の場合(親称・複数、敬称・複数)は、述語はいつも複数形になります。
3人称の он, она, они の使い方
3人称の人称代名詞 он, она, они は、人を表わして「彼」、「彼女」、「彼ら、彼女ら」を表わすだけではなく、物や事を表わす名詞の代わりに「それ」、「それら」としても使われることに注意してください。
再帰代名詞とは
再帰代名詞(さいきだいめいし)は、「文の主語と同じ人や物・事」を繰り返して表すための代名詞です。ですから、再帰代名詞そのものは主語となることがないので、主格形がありません。
日本語では、「自分」、「自分自身」、「自分のこと」などとすると、うまく訳せることが多いです。
ロシア語の再帰代名詞は себя です。この代名詞が表す人や物・事の人称や数に関係なく、同じ形を使います。ですから、「私自身」でも「あなた自身」でも себя です。
再帰代名詞の格変化
再帰代名詞は、2人称単数の人称代名詞 ты と同じように格変化します。人称代名詞と同じように、対格形は生格形と同じ形になります。
主格 | |
---|---|
対格 | себя |
生格 | себя |
前置格 | себе |
与格 | себе |
造格 | собой |
再帰代名詞には主格がないので、対格・生格の形 себя が基本の形として辞書に載っています。
再帰代名詞の使い方
3つめの例文、Она всегда думает о себе.「彼女はいつも自分のことを考えている。」の себе を、3人称の人称代名詞 ней にして、Она всегда думает о ней. とすると、「彼女はいつもあの女性のことを考えている。」という意味になります。
ней は она の前置格ですが、主語の она とは別の女性(あるいは、女性名詞で表されるもの)を表すことになるからです。
主格の主語がない文で使われる себя
再帰代名詞 себя は、文の主語を繰り返して表す代名詞ですが、無人称文のような主格の主語がない文でも、再帰代名詞を使うことがあります。
その場合は、主格以外で表されている意味上の主語を繰り返して表すことになります。
これは、無人称述語 надо「~する必要がある」を使った文です。
この文では、「愛する必要がある」のは「あなた」ですが、主格の вы ではなく、与格の вам で表されます。つまり「意味上の主語」である「あなた」が与格で表されています。
そして、誰を「愛する」のかというと、与格の вам で表されているのと同じ「あなた自身」です。
このような場合でも、再帰代名詞 себя(この文では любить の目的語として対格)を使います。
疑問人称代名詞
「何」、「誰」のように、疑問を表す人称代名詞に что と кто があります。
この代名詞は、ふつう「人称代名詞」ではなく「疑問代名詞」に分類されるので、疑問代名詞の記事で説明します。
まとめ
ロシア語の人称代名詞と再帰代名詞について説明しました。
人称代名詞は、ロシア語を使う上で必須の単語ですから、格変化を含めて確実に覚える必要があります。
このとき、次の点に特に注意するとよいでしょう。

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