ロシア語の名詞の格変化(第1変化)【初級ロシア語】

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ロシア語の名詞の格変化のうち、第1変化とよばれる変化タイプについて説明します。

第1変化には、単数主格形に語尾のない男性名詞や、単数主格形の語尾が -/o/-/e/(文字の綴りで )の中性名詞が含まれます。

第1変化の男性名詞と中性名詞の語尾は、単数・複数の主格、複数生格以外は、基本的に同じです。

格変化のときに、語幹末の /ʒ, ʃ, ts/(文字の綴りで ж, ш, ц)は、軟子音として扱うこと、語幹末の子音が -/j/ のときは、一部の語尾が違う形となることに注意が必要です。

また、複数主格形の語尾が基本と違ったり、複数形の語幹の形が変化する、例外的な単語もあります。このような単語は、ひとつひとつ辞書を確認する必要があります。

文字で綴るときには、正書法の規則が適用されることにも注意してください。

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名詞の変化の概要

名詞の特徴

名詞は、人や物、事を指し示す働きをする単語です。ロシア語の名詞には、次のような特徴があります。

  • 性(せい)の区別がある:男性、中性、女性
  • 数(すう)によって形が変わる:単数、複数
  • 格(かく)によって形が変わる:主格、対格、生格(属格)、前置格、与格、造格(具格)

ロシア語の名詞は、3つのグループに分類されます。このグループを伝統的に、男性名詞(だんせいめいし)、中性名詞(ちゅうせいめいし)、女性名詞(じょせいめいし)と呼んでいます。このため、名詞には「性の区別」があると言ったりします。

また、ロシア語の名詞は、指し示す人や物・事が1人・1個であるか、2人・2個以上であるかによって、形が変わります。この区別を(すう)といいます。ロシア語の名詞は、単数(たんすう)か複数(ふくすう)かによって形が変わります。

そして、ロシア語の名詞は、文の中でどのような役割を果たしているかを示すために形が変わります。この役割を(かく)といいます。

そして、数や格によって名詞の形が変わることを曲用(きょくよう)と呼びますが、ここでは、一般的によく使われるように「格変化(かくへんか)」と呼ぶことにします。

名詞の格変化の分類

ロシア語の名詞の格変化のしかたには、大きく分けて次の3つの変化パターンがあります。

  • 第1変化:多くの男性名詞、多くの中性名詞
  • 第2変化:多くの女性名詞、一部の男性名詞
  • 第3変化:一部の女性名詞、一部の中性名詞

名詞が、男性、中性、女性名詞のどれに分類されるかによって変化パターンが決まっているのではありません。同じような変化をする名詞を集めて、第1、第2、第3変化の変化パターンに分類したのです。

しかし、男性名詞と中性名詞の多くは第1変化で変化し、女性名詞の多くは第2変化で変化します。このため、多くの教科書では、名詞の性の区別と変化パターンとを関連させて記述しています。

名詞が格変化するときに、形の変わらない部分を語幹(ごかん)、語幹より後ろの形の変わる部分を語尾(ごび)といいます。格変化とは、語尾がどのように変化するかということです。

補足

多くの教科書では、文字を基本にして変化を考えています。しかし、本来は音(音素)を基本にして考えるのが本質的です。

音素については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

音声学と音韻論、音声と音素の違い

ここでは、音(音素)を基本として、第1変化のパターンを説明します。名詞の変化を文字の綴りとして考えるときには、次の点を考慮する必要があります。

  • 語幹末が /ʒ, ʃ, ts/(文字の綴りで ж, ш, ц)の名詞は、語幹末が軟子音であるとして考える
  • 正書法の規則を適用する
    • /ɡ, k, x/(文字の綴りで г, к, х)の直後に /i/ が来ると、ы ではなく и と綴る
    • /ʒ, tɕ, ʃ, ɕː/(文字の綴りで ж, ч, ш, щ)の直後に /i, u, a/ が来ると、ы, ю, я ではなく и, у, а と綴る
    • /ts/(文字の綴りで ц)の直後に /u, a/ が来ると、ю, я ではなく у, а と綴る
    • /ts/(文字の綴りで ц)の直後に /i/ の語尾が来ると、и ではなく ы と綴る

この後の説明で、単語の中の赤字の母音字は、その母音にアクセントがおかれることを表しています。

補足

伝統的なロシア語学では、6つの格を一覧にするときに、
 主格、生格、与格、対格、造格、前置格
の順に並べています。当サイトでは、
 主格、対格、生格、前置格、与格、造格
の順に並べています。これは、名詞や形容詞が同じ形になる格どうしを、隣り合うように並べることによって、変化形どうしの関連を意識しやすくするためです。

第1変化(男性名詞)の格変化

第1変化の男性名詞は、単数主格に語尾がない名詞です(下の表では -∅ で表しています)。

この変化タイプの名詞の格変化の語尾は、次のようになります。なお、( ) 内は、その語尾にアクセントがある場合です。また、/t//tʲ/ のように、硬子音と軟子音がペアとなっている子音を、「ペアの硬子音」、「ペアの軟子音」としています。

音素による第1変化(男性名詞)の格変化の語尾
語幹末
硬子音軟子音
ペアの
硬子音
-/ɡ/
-/k/
-/x/
ペアの
軟子音
-/ʒ/
-/tɕ/
-/ʃ/
-/ɕː/
-/ts/-/j/
-/ij/以外-/ij/
単数主格-∅
対格=主格 / 生格
生格-/a/
前置格-/e/-/i/
与格-/u/
造格-/om/-/em/
(-/om/)
-/em/
複数主格-/i/
対格=主格 / 生格
生格-/ov/-/ej/-/ev/
(-/ov/)
前置格-/ax/
与格-/am/
造格-/amʲi/

単数造格と複数生格の語尾は、語幹末の子音の種類によって変わります。それ以外の格は、基本的に同じ語尾です。

多くの教科書のように、文字の綴りで変化の語尾を表すと、次のようになります。

文字の綴りによる第1変化(男性名詞)の格変化の語尾
語幹末
硬子音軟子音
ペアの
硬子音


ペアの
軟子音
(-ь)



-ий以外-ий
単数主格なし
対格=主格 / 生格
生格
前置格
与格
造格-ом-ем
(-ём)
-ем
(-ом)
-ем
複数主格
対格=主格 / 生格
生格-ов-ей-ев
(-ов)
-ев
(-ёв)
-ев
前置格-ах-ях-ах-ях
与格-ам-ям-ам-ям
造格-ами-ями-ами-ями

   は、語幹末が軟子音のときに特有な語尾の部分です。また、表の中の    は、正書法の規則によって綴りが変わった部分です。

単数の格変化

単数主格には語尾がないため、語幹末の子音がそのまま単語の語末となります。

単数対格は、不活動体名詞ならば単数主格と同じ形、活動体名詞ならば単数生格と同じ形になります。

単数生格-/a/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら 、軟子音なら ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは となります。

単数前置格-/e/ です。この語尾の直前におかれた語幹末の子音は必ず軟子音になります。ですから、語幹末が硬子音の単語でも、軟子音に変化して発音されます。文字の綴りでは になります。

単数前置格の特別なタイプとして、語幹末が -/ij/(文字の綴りで -ий)のときは、-/e/ ではなく -/i/ の語尾が付きます。結果として、語末が -/ij/-/i/-/iji/ となって、文字では -ии と綴られます。

単数与格-/u/ です。語幹末が硬子音なら 、軟子音なら ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは となります。

単数造格は 語幹末が硬子音なら -/om/、軟子音なら -/em/ です。しかし、語尾にアクセントがあるときは、すべて -/om/ です。

補足

単数造格の語尾は、本質的には、語幹末が硬子音でも軟子音でも -/om/ です。

語幹末が軟子音のときは、その直後にアクセントのない /o/ をおけずに、代わりに /e/ となるので、-/em/ となるからです。

文字の綴りは、語幹にアクセントがあるときは -ом または -ем です。語尾にアクセントがおかれたとき、-/om/-ом と書かれるか -ём と書かれるかの違いに注意してください。

複数の格変化

複数主格-/i/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら 、軟子音なら ですが、正書法の規則によって、-г, к, х のときは のときは となります。

補足

/tsi/ の音を表す綴りには、цыци の両方があり得ますが、単語の語尾では цы が使われます。

複数対格は、単数対格のときと同じように、不活動体名詞ならば複数主格と同じ形、活動体名詞ならば複数生格と同じ形になります。

複数生格は少し複雑です。語幹末が硬子音ならば -/ov/ です。軟子音のときは、ペアの軟子音か -/ʒ/, /tɕ/, /ʃ/, /ɕː/ ならば -/ej/ です。-/ts/, /j/ ならば -/ev/ で、この語尾にアクセントがあれば -/ov/ になります。

文字の綴りは -ов-ей-ев となりますが、-ев にアクセントがあるときに、語尾が -ов となるか -ёв となるかの違いに注意してください。

複数前置格-/ax/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら -ах、軟子音なら -ях ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは -ах となります。

複数与格-/am/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら -ам、軟子音なら -ям ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは -ам となります。

複数造格-/amʲi/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら -ами、軟子音なら -ями ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは -ами となります。

格変化の例

語幹末が硬子音

第1変化(男性名詞)の格変化の例
語幹末
硬子音
ペアの
硬子音


学生少年
単数主格студентмальчик
対格=生格=生格
生格студентамальчика
前置格студентемальчике
与格студентумальчику
造格студентоммальчиком
複数主格студентымальчики
対格=生格=生格
生格студентовмальчиков
前置格студентахмальчиках
与格студентаммальчикам
造格студентамимальчиками

表の中の    は、正書法の規則によって綴りが変わった部分です。

第1変化の男性名詞の基本となる格変化です。

語幹末が -г, -к, -х のときは、正書法の規則のために、複数主格で を綴れないため を綴る点が異なります。

語幹末が軟子音(ペアの軟子音)

第1変化(男性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音
ペアの
軟子音
(-ь)
作家辞書
単数主格писательсловарь
対格=生格=主格
生格писателясловаря
前置格писателесловаре
与格писателюсловарю
造格писателемсловарём
複数主格писателисловари
対格=生格=主格
生格писателейсловарей
前置格писателяхсловарях
与格писателямсловарям
造格писателямисловарями

表の中の    は、語尾にアクセントがあるときに、綴りに注意が必要な部分です。

語幹末が軟子音の第1変化名詞の基本となる格変化です。

語尾にアクセントがあるとき、単数造格では -ем ではなく -ём となる点が異なります。

また、複数生格が -ей となることに注意してください。語尾にアクセントがあっても -ей です。

単数主格の末尾の は、語幹末が軟子音であることを表しています。語尾が付くと、語尾の文字 -и, -я, -е, -ю がその役割をするため、 を取り除いて綴ることにも注意してください。

語幹末が軟子音(-ж, -ч, -ш, -щ)

第1変化(男性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音



仲間鉛筆
単数主格товарищкарандаш
対格=生格=主格
生格товарищакарандаша
前置格товарищекарандаше
与格товарищукарандашу
造格товарищемкарандашом
複数主格товарищикарандаши
対格=生格=主格
生格товарищейкарандашей
前置格товарищахкарандашах
与格товарищамкарандашам
造格товарищамикарандашами

表の中の    は、正書法の規則によって綴りが変わった部分です。また、   は、語尾にアクセントがあるときに、綴りに注意が必要な部分です。

語幹末が -ж, -ч, -ш, -щ のときは、正書法の規則のために、単数生格・与格、複数前置格・与格・造格で -я, -ю を綴れないため -а, -у を綴る点が異なります。

また、語尾にアクセントがあるとき、単数造格では -ем ではなく -ом となる点がに注意が必要です。

複数生格は、語幹末がペアの軟子音のときと同じく -ей となることに注意してください。語尾にアクセントがあっても -ей です。

語幹末が軟子音(-ц)

第1変化(男性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音
(暦の)月
単数主格месяцотец
対格=主格=生格
生格месяцаотца
前置格месяцеотце
与格месяцуотцу
造格месяцемотцом
複数主格месяцыотцы
対格=主格=生格
生格месяцевотцов
前置格месяцахотцах
与格месяцамотцам
造格месяцамиотцами

表の中の    は、正書法の規則によって綴りが変わった部分です。また、   は、語尾にアクセントがあるときに、綴りに注意が必要な部分です。

語幹末が のときは、正書法の規則のために、単数生格・与格、複数主格・前置格・与格・造格で -и, -я, -ю を綴れないため -ы, -а, -у を綴る点が異なります。

補足

/tsi/ の音を表す綴りには、цыци の両方があり得ますが、単語の語尾では цы が使われます。

複数生格は -ей ではなく -ев となることに注意してください。

また、語尾にアクセントがあるとき、単数造格では -ем ではなく -ом、複数生格では -ев ではなく -ов となる点に注意が必要です。

補足

отец「父」では、語尾が付くと、出没母音を表す е が消えてしまいます。

語幹末が軟子音(-й)

第1変化(男性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音
-ий以外-ий
博物館戦闘天才
単数主格музейбойгений
対格=主格=主格=主格
生格музеябоягения
前置格музеебое
бою
гении
与格музеюбоюгению
造格музеембоемгением
複数主格музеибоигении
対格=主格=主格=生格
生格музеевбоёвгениев
前置格музеяхбояхгениях
与格музеямбоямгениям
造格музеямибоямигениями

表の中の    は、語尾にアクセントがあるときに、綴りに注意が必要な部分です。

語幹末が のときは、複数生格が -ев となることに注意してください。語尾にアクセントがあるときは -ёв となります。

また、単数前置格の特別な場合として、語幹末が -ий の単語は -ии となります。これは、音(音素)で考えると、語幹末が -/ij/ の単語に、-/e/ ではなく -/i/ が付いたものです。語末は -/iji/ となって、さらに /ji//i/ に縮まった結果、-/ii/ となります。

単数主格の末尾の は、語幹末の音 -/j/ を表しています。語尾が付くと、語尾の文字 -и, -я, -е, -ю/j/ の音を表しているため、 を取り除いて綴ることにも注意してください。

補足

бой「戦闘」では、単数前置格に第2前置格形の бою があります。

第1変化(中性名詞)の格変化

第1変化の中性名詞は、単数主格の語尾が -/o/-/e/ の名詞です。

この変化タイプの名詞の格変化の語尾は、次のようになります。なお、( ) 内は、その語尾にアクセントがある場合です。

音素による第1変化(中性名詞)の格変化の語尾
語幹末
硬子音軟子音
ペアの
硬子音
-/ɡ/
-/k/
-/x/
ペアの
軟子音
-/ʒ/
-/tɕ/
-/ʃ/
-/ɕː/
-/ts/-/j/
-/ʲj/-/ij/
単数主格-/o/-/e/-/e/
(-/o/)
-/e/
対格=主格
生格-/a/
前置格-/e/-/i/
与格-/u/
造格-/om/-/em/-/em/
(-/om/)
-/em/
複数主格-/a/
対格=主格 / 生格
生格-∅-/ej/-∅
前置格-/ax/
与格-/am/
造格-/amʲi/

主格と対格、複数生格以外は、第1変化の男性名詞と同じ語尾です。ですから同じ第1変化のタイプに分類されています。

単数の主格と造格、複数生格の語尾は、語幹末の子音の種類によって変わります。それ以外の格は、同じ語尾です。

多くの教科書のように、文字の綴りで変化の語尾を表すと、次のようになります。

文字による第1変化(中性名詞)の格変化の語尾
語幹末
硬子音軟子音
ペアの
硬子音


ペアの
軟子音



-/j/
-ь-е
(-ь-ё)
-и-е
単数主格
(-о)
-ь-е
(-ь-ё)
-и-е
対格=主格
生格-ь-я-и-я
前置格-ь-е-и-и
与格-ь-ю-и-ю
造格-ом-ем-ем
(-ом)
-ь-ем
(-ь-ём)
-и-ем
複数主格-ь-я-и-я
対格=主格 / 生格
生格なし-ейなし-ий
前置格-ах-ях-ах-ь-ях-и-ях
与格-ам-ям-ам-ь-ям-и-ям
造格-ами-ями-ами-ь-ями-и-ями

   は、語幹末が軟子音のときに特有な語尾の部分です。また、表の中の    は、正書法の規則によって綴りが変わった部分です。

単数の格変化

単数主格は、語幹末が硬子音なら -/o/(文字の綴りで )です。軟子音なら -/e/(文字の綴りで )ですが、語尾にアクセントがあるときは -/o/(文字の綴りで または ) になります。

単数対格は、不活動体名詞でも活動体名詞でも単数主格と同じ形になります。

単数生格-/a/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら 、軟子音なら ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは となります。

単数前置格-/e/ です。この語尾の直前におかれた語幹末の子音は必ず軟子音になります。ですから、語幹末が硬子音の単語でも、軟子音に変化して発音されます。文字の綴りでは になります。

単数前置格の特別なタイプとして、語幹末が -/ij/(主格の文字の綴りが -ие)のときは、-/e/ ではなく -/i/ の語尾が付きます。結果として、語末が -/ij/-/i/-/iji/ となって、文字では -ии と綴られます。

補足

語幹末が -/ʲj/、つまり「軟子音+/j/」の単語の単数前置格は、通常通りに -/e/ の語尾が付きます。

結果として、語末が -/ʲje/(文字の綴りで -ье)となります。

単数与格-/u/ です。語幹末が硬子音なら 、軟子音なら ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは となります。

単数造格は 語幹末が硬子音なら -/om/、軟子音なら -/em/ です。しかし、語尾にアクセントがあるときは、すべて -/om/ です。

補足

単数造格の語尾は、本質的には、語幹末が硬子音でも軟子音でも -/om/ です。

語幹末が軟子音のときは、その直後にアクセントのない /o/ をおけずに、代わりに /e/ となるので、-/em/ となるからです。

文字の綴りは、語幹にアクセントがあるときは -ом または -ем です。語尾にアクセントがおかれたとき、-/om/-ом と書かれるか -ём と書かれるかの違いに注意してください。

複数の格変化

複数主格-/a/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら 、軟子音なら ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは となります。

複数対格は、不活動体名詞ならば複数主格と同じ形、活動体名詞ならば複数生格と同じ形になります。中性名詞の場合、活動体名詞は少ししかありません。

複数生格は、語幹末がペアの軟子音ならば -/ej/(文字の綴りで -ей)で、それ以外は語尾がありません。

語幹末が -/j/(語末の文字の綴りが -ье または -ие)のときは、複数生格の語末の綴りが -ий となりますが、これも語尾が付かない結果の形です。

  • -ье:軟子音 /ʲ//j/ が連続するため、間に出没母音 -/i/- が現われます。
    -/ʲ/-/i/-/j/-/ʲij/-ий
  • -ие:語幹末の母音 /i/ と子音 /j/ がそのまま複数生格の語末になります。なお、母音 /i/ の前は必ず軟子音です。
    -/i/-/j/-/ij/-ий

複数前置格-/ax/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら -ах、軟子音なら -ях ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは -ах となります。

複数与格-/am/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら -ам、軟子音なら -ям ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは -ам となります。

複数造格-/amʲi/ です。文字の綴りでは、語幹末が硬子音なら -ами、軟子音なら -ями ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ, ц のときは -ами となります。

格変化の例

語幹末が硬子音

第1変化(中性名詞)の格変化の例
語幹末
硬子音
ペアの
硬子音
単語手紙
単数主格словоокнописьмо
対格=主格=主格=主格
生格словаокнаписьма
前置格словеокнеписьме
与格словуокнуписьму
造格словомокномписьмом
複数主格словаокнаписьма
対格=主格=主格=主格
生格словоконписем
前置格словахокнахписьмах
与格словамокнамписьмам
造格словамиокнамиписьмами

表の中の    は、出没母音が現われるため、綴りに注意が必要な部分です。

第1変化の中性名詞の基本となる格変化です。

複数生格では、語尾がないため、語幹末が子音が連続して終わっている場合に、出没母音 /o//e/ が現われることがあります。

окно「窓」では出没母音 /o/ が、письмо「手紙」では出没母音 /e/ が、それぞれ現われています。

  • окно/ok/-/o/-/n//ˈokon/окон
  • письмо/pʲisʲ/-/e/-/m//ˈpʲisʲem/писем

語幹末が軟子音(ペアの軟子音)

第1変化(中性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音
ペアの
軟子音
単数主格море
対格=主格
生格моря
前置格море
与格морю
造格морем
複数主格моря
対格=主格
生格морей
前置格морях
与格морям
造格морями

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

語幹末が軟子音の第1変化名詞の基本となる格変化です。

複数生格は、語尾 -ей が付くことに注意してください。

語幹末が軟子音(-ж, -ч, -ш, -щ, -ц)

第1変化(中性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音




太陽
単数主格солнцелицо
対格=主格=主格
生格солнцалица
前置格солнцелице
与格солнцулицу
造格солнцемлицом
複数主格солнцалица
対格=主格=主格
生格солнцлиц
前置格солнцахлицах
与格солнцамлицам
造格солнцамилицами

表の中の    は、正書法の規則によって綴りが変わった部分です。また、   は、語尾にアクセントがあるときに、綴りに注意が必要な部分です。

語幹末が -ж, -ч, -ш, -щ, -ц のときは、正書法の規則のために、単数生格・与格、複数前置格・与格・造格で -я, -ю を綴れないため -а, -у を綴る点が異なります。

また、語尾にアクセントがあるとき、単数造格では -ем ではなく -ом となる点がに注意が必要です。

複数生格は、語幹末がペアの軟子音のときとは違って、語尾が付かないことにも注意してください。

語幹末が軟子音(-й)

第1変化(中性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音
-/j/
-ье
(-ьё)
-ие
ジャム槍(やり)建物
単数主格вареньекопьёздание
対格=主格=主格=主格
生格вареньякопьяздания
前置格вареньекопьездании
与格вареньюкопьюзданию
造格вареньемкопьёмзданием
複数主格вареньякопьяздания
対格=主格=主格=主格
生格варенийкопийзданий
前置格вареньяхкопьяхзданиях
与格вареньямкопьямзданиям
造格вареньямикопьямизданиями

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

語幹末が -/j/ の単語には、「軟子音+/j/」(単数主格の文字の綴りは -ье)と、「母音 /i//j/」(単数主格の文字の綴りは -ие)の2種類があります。

-ье のタイプの単語は、複数生格が -ий で終わることに注意してください。これは、-ий という語尾が付いているのではなく、語尾がないことによって -ий という形になっています。

音(音素)で考えると、語尾が付かないため、語幹末の -/ʲj/ がそのまま語末になります。このとき、連続する子音の間に出没母音 /i/и)が現われるため、-/ʲij/-ий)となります。

-ие のタイプの単語は、単数前置格の語尾が -/e/ ではなく -/i/ です。このため、-/ij/-/i/-/iji/ となって、-ии と綴ります。

また、複数生格が -ий で終わることに注意してください。これは、語尾がないことによって、語幹末の -/ij/-ий)がそのまま語末の形になっています。

例外的な格変化

第1変化の名詞の中には、複数形が例外的な形になるものがあります。

主なパターンに分けて説明しますが、ひとつひとつ辞書で確認する必要があります。

複数主格形が -а, -я となる男性名詞

第1変化の男性名詞の中には、複数主格形の語尾が -/i/ ではなく、-/a/ となるものがあります。文字の綴りでは、語幹末が硬子音であれば 、軟子音であれば です。この語尾にアクセントがあります。

また、基本的に、例外的な形となるのは複数主格だけで、複数のその他の格では通常の語尾が付きます。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(男性名詞)の格変化の例
都市先生
単数主格городглазучитель
対格=主格=主格=生格
生格городаглазаучителя
前置格городеглазе
глазу
учителе
与格городуглазуучителю
造格городомглазомучителем
複数主格городаглазаучителя
対格=主格=主格=生格
生格городовглазучителей
前置格городахглазахучителях
与格городамглазамучителям
造格городамиглазамиучителями

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

глаз「目」は、さらに例外的な変化をします。複数生格形には、語尾 -/ov/ が付くのではなく、語尾なしの形となります。また、単数前置格形に第2前置格の形をもつ単語です。

第2前置格については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

≫ ロシア語の名詞の前置格

複数主格形が -ья となる男性名詞

第1変化の男性名詞の中には、複数形の語幹が -/ʲj/ となるものがあります。もともとの語幹末の子音が軟子音になって、さらに /j/ が付くわけです。

このタイプの名詞では、複数主格形の語尾が -/i/ ではなく、-/a/ となります。文字の綴りでは、-ья です。語幹にアクセントのある単語と、語尾にアクセントのある単語があります。

また、複数生格形は、語幹にアクセントがあれば -/ev/(文字の綴りで -ев)の語尾を付けます。語尾にアクセントがあれば、語尾なしの形となるため、語幹末の軟子音と /j/ の間に出没母音 /e/ が現われて、そこにアクセントがおかれます。文字の綴りでは -ей となります。

さらに、複数形で語尾にアクセントのあるタイプの単語では、もともとの語幹末の子音が交替するものや、語幹が -/ov/- で延長されるものもあります。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(男性名詞)の格変化の例
複数形で語幹にアクセント複数形で語尾にアクセント
兄・弟いす友だち息子
単数主格братстулдругсын
対格=生格=主格=生格=生格
生格братастуладругасына
前置格братестуледругесыне
与格братустулудругусыну
造格братомстуломдругомсыном
複数主格братьястульядрузьясыновья
対格=生格=主格=生格=生格
生格братьевстульевдрузейсыновей
前置格братьяхстульяхдрузьяхсыновьях
与格братьямстульямдрузьямсыновьям
造格братьямистульямидрузьямисыновьями

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

друг「友だち」は、複数形では語幹末の子音が /ɡ/ から /z/ に(文字の綴りでは г から з に)変わっています。また、сын「息子」の複数形の語幹は /ov/(文字の綴りで ов)だけ長くなっています。

複数形で語尾にアクセントのある друг「友だち」や сын「息子」の複数生格形では、文字 ь が書かれていないことに注意してください。

補足

複数形で語尾にアクセントのある単語の複数生格形に、もしも語尾 -/ej/ が付くならば、/druzʲj/-/ej/ となって *друзьей と綴ることになります。

正しい複数生格形は語尾がないため、/druzʲj/ となりますが、語末に連続している子音 /zʲ//j/ の間に出没母音 /e/ が現われて /druzʲej/ となります。このため文字の綴りは друзей となります。

単数主格形が -ин で終わる男性名詞

第1変化の男性名詞の中で、-/ʲin/(文字の綴りでは -ин)で終わる人を表す単語があります。

これらの単語では、-/ʲin/ を取り除いたものが複数形の語幹となります。

複数主格形の語尾にはいくつかのタイプがあって、-/ʲe/, -/i/, -/a/(文字の綴りでは -е, -ы, -а)となるものがあります。

また、複数生格形に語尾は付きません。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(男性名詞)の格変化の例
農民ブルガリア人紳士、~様
単数主格крестьянинболгарингосподин
対格=生格=生格=生格
生格крестьянинаболгаринагосподина
前置格крестьянинеболгаринегосподине
与格крестьянинуболгаринугосподину
造格крестьяниномболгариномгосподином
複数主格крестьянеболгарыгоспода
対格=生格=生格=生格
生格крестьянболгаргоспод
前置格крестьянахболгарахгосподах
与格крестьянамболгарамгосподам
造格крестьянамиболгарамигосподами

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

単数主格形が -онок, -ёнок で終わる男性名詞

第1変化の男性名詞の中で、-/onok/(文字の綴りでは -онок, -ёнок)で終わる生き物の子どもを表す単語があります。

これらの単語の中には、-/onok/ を取り除いて -/at/ をつけたものが複数形の語幹となるものがあります。

複数主格形の語尾は -/i/ ではなく -/a/ となるため、語末は -/ata/(文字の綴りでは -ата, -ята)となります。

また、複数生格形に語尾は付きません。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(男性名詞)の格変化の例
子猫子ネズミ
単数主格котёнокмышонок
対格=生格=生格
生格котёнкамышонка
前置格котёнкемышонке
与格котёнкумышонку
造格котёнкоммышонком
複数主格котятамышата
対格=生格=生格
生格котятмышат
前置格котятахмышатах
与格котятаммышатам
造格котятамимышатами

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

この変化タイプの名詞では、単数の主格以外(つまり、生格・前置格・与格・造格)では、語幹末の出没母音の -/o/-(文字の綴りで -о-)が脱落することにも注意してください。

複数形の語幹末が軟子音になる男性名詞

第1変化の男性名詞の中には、語幹末の硬子音が、複数形では軟子音になる単語があります。複数主格形の語尾は、ふつうの第1変化と同じ -/i/(文字の綴りで )です。

また、複数生格形の語尾は、語幹末がペアの軟子音ですから -/ej/(文字の綴りで -ей)となります。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(男性名詞)の格変化の例
隣人悪魔
単数主格соседчёрт
対格=生格=生格
生格соседачёрта
前置格соседечёрте
与格соседучёрту
造格соседомчёртом
複数主格соседичерти
対格=生格=生格
生格соседейчертей
前置格соседяхчертях
与格соседямчертям
造格соседямичертями

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

чёрт「悪魔」は、語幹の母音 -/o/- が、複数形では -/e/-(文字の綴りで -ё- から -е-)に変わるので注意してください。

複数主格形が -и となる中性名詞

第1変化の中性名詞の中には、複数主格形の語尾が -/a/ ではなく -/i/(文字の綴りでは )となる単語があります。

また、例外的な形となるのは複数主格だけで、複数のその他の格では通常の語尾が付きます。複数生格形は語尾なしの形です。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(中性名詞)の格変化の例
リンゴ
単数主格яблокоплечо
対格=主格=主格
生格яблокаплеча
前置格яблокеплече
与格яблокуплечу
造格яблокомплечом
複数主格яблокиплечи
対格=主格=主格
生格яблокплеч
前置格яблокахплечах
与格яблокамплечам
造格яблокамиплечами

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

複数形の語幹末が軟子音になる中性名詞

第1変化の中性名詞の中には、語幹末の硬子音が、複数形では軟子音になる単語があります。複数主格形の語尾は、-/a/ ではなく -/i/(文字の綴りで )です。

また、複数形で、もともとの語幹末の子音が交替するものがあります。

複数生格形の語尾は、-/ej/(文字の綴りで -ей)となります。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(中性名詞)の格変化の例
単数主格коленоухо
対格=主格=主格
生格коленауха
前置格коленеухе
与格коленууху
造格коленомухом
複数主格колениуши
対格=主格=主格
生格коленейушей
前置格коленяхушах
与格коленямушам
造格коленямиушами

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

колено「膝」の複数形では、語幹末の子音は硬子音 -/n/ から軟子音 -/nʲ/ に変わるだけですが、ухо「耳」では -/x/ から -/ʃ/ へと、違う子音に交替していることに注意してください。

複数主格形が -ья となる中性名詞

第1変化の中性名詞の中には、複数形の語幹が -/ʲj/ となるものがあります。もともとの語幹末の子音が軟子音になって、さらに /j/ が付くわけです。

このタイプの名詞の複数形では、語幹にアクセントがあります。

また、複数生格形は、-/ev/(文字の綴りで -ев)の語尾を付けます。

いくつかの例を挙げます。

例外的な第1変化(中性名詞)の格変化の例
単数主格деревоперо
対格=主格=主格
生格деревапера
前置格деревепере
与格деревуперу
造格деревомпером
複数主格деревьяперья
対格=主格=主格
生格деревьевперьев
前置格деревьяхперьях
与格деревьямперьям
造格деревьямиперьями

表の中の    は、綴りに注意が必要な部分です。

まとめ

ロシア語の名詞の格変化のうち、第1変化とよばれる変化タイプについて説明しました。

第1変化には、単数主格形に語尾のない男性名詞や、単数主格形の語尾が -/o/-/e/(文字の綴りで )の中性名詞が含まれます。

第1変化の男性名詞と中性名詞の語尾を、簡単にまとめると、次の表のようになります。単数・複数の主格、複数生格以外は、男性名詞と中性名詞の語尾は基本的に同じです。

音素による第1変化の格変化の基本的な語尾
男性名詞中性名詞
単数主格-∅-/o/, -/e/
対格=主格 / 生格=主格
生格-/a/
前置格-/e/
与格-/u/
造格-/om/, -/em/
複数主格-/i/-/a/
対格=主格 / 生格
生格-/ov/, -/ev/, -/ej/-∅, -/ej/
前置格-/ax/
与格-/am/
造格-/amʲi/

格変化のときに、語幹末の /ʒ, ʃ, ts/(文字の綴りで ж, ш, ц)は、軟子音として扱うこと、語幹末の子音が -/j/ のときは、一部の語尾が違う形となることに注意が必要です。

また、複数主格形の語尾が基本と違ったり、複数形の語幹の形が変化する、例外的な単語もあります。このような単語は、ひとつひとつ辞書を確認する必要があります。

文字で綴るときには、正書法の規則が適用されることにも注意してください。

  • /ɡ, k, x/(文字の綴りで г, к, х)の直後に /i/ が来ると、ы ではなく и と綴る
  • /ʒ, tɕ, ʃ, ɕː/(文字の綴りで ж, ч, ш, щ)の直後に /i, u, a/ が来ると、ы, ю, я ではなく и, у, а と綴る
  • /ts/(文字の綴りで ц)の直後に /u, a/ が来ると、ю, я ではなく у, а と綴る
  • /ts/(文字の綴りで ц)の直後に /i/ の語尾が来ると、и ではなく ы と綴る
参考文献
佐藤 純一(著)
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匹田 剛(著)
¥3,850 (2023/12/05 08:40時点 | Amazon調べ)
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