ロシア語の正書法の規則と例外的な発音【初級ロシア語】

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ロシア語には、正書法の規則とよばれる、文字の綴り方の決まり事があります。名詞や形容詞、動詞が変化するときに、変則的な綴りが現われることがあります。

ここではロシア語の単語の綴り方について、正書法の規則を説明します。

また、ロシア語は基本的に文字の綴りから発音が分かるのですが、文字の綴り通りに発音しない場合があります。例外的な発音をするパターンについて、いくつか例を挙げて説明します。

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ロシア語の正書法の規則

正書法(せいしょほう)とは、言語を文字で書き記すときの決まり事のことです。単語の綴り方や大文字・小文字の使い分け方、句読点の使い方などの決まり事があります。

ロシア語の正書法の規則という場合、単語の綴り方についての決まり事を意味することが多いようです。

名詞や形容詞、動詞が語尾変化するときに、本来書くはずの母音文字を書かずに、違う母音文字を書く規則です。

正書法の規則は、次のように表されます。

正書法の規則(1)

文字 г, к, хж, ч, ш, щ の後には、文字 ы, ю, я を書くことができず、代わりに、文字 и, у, а を書く。

正書法の規則は、あくまでも文字の綴り方の決まりであって、発音の決まりではありません。しかし、г, к, х について正書法の規則が適用されたときには、発音にも影響します。

初級の教科書にはあまり書かれませんが、文字 ц についても、次のような正書法の規則があります。

正書法の規則(2)

文字 ц の後には、文字 ю, я を書くことができず、代わりに、文字 у, а を書く。

文字 ц の後には、文字 ы, и のどちらも書くことができるが、単語の語尾には文字 ы を書く。

文字 г, к, х の場合

г, к, х は硬子音と軟子音の両方を表すことができる文字です。

これらの文字の後に、文字 ы を綴る必要があるときに、文字 и を綴るという決まりです。

なお、語尾変化のときに、これらの文字の後に ю, я を綴る必要が出て来ることはありません。

代表して文字 г で考えると、文字の綴りの問題としては、гы ではなく ги を綴るというだけのことです。しかし、綴りが表す発音について考えると、少し複雑になってしまいます。

文字 г の後に文字 ы を綴る必要がある場合、文字 г は硬子音 /ɡ/ を表していて、その後に母音 /i/ を発音したいということです。このとき正書法の規則によって гы ではなく ги と綴るので、結果として軟子音 /ɡʲ/ と母音 /i/ の組み合わせになってしまいます。

ですから、г, к, х に正書法の規則が適用されると、硬子音の /ɡ, k, x/ が軟子音の /ɡʲ, kʲ, xʲ/ に発音が変化することになります。

  • гы /ɡi/ [ɡi]ги /ɡʲi/ [ɡʲi]
  • кы /ki/ [ki]ки /kʲi/ [kʲi]
  • хы /xi/ [xi]хи /xʲi/ [xʲi]

文字 ж, ш の場合

ж, ш は常に硬子音を表す文字です。

これらの文字の後に ыиюуяа、どちらを綴っても発音は変わりませんが、必ず и, у, а を綴ります。

  • жы /ʒi/ [ʒˠɨ]жи /ʒi/ [ʒˠɨ]
  • шы /ʃi/ [ʃˠɨ]ши /ʃi/ [ʃˠɨ]
  • жю /ʒu/ [ʒˠu]жу /ʒu/ [ʒˠu]
  • шю /ʃu/ [ʃˠu]шу /ʃu/ [ʃˠu]
  • жя /ʒa/ [ʒˠa]жа /ʒa/ [ʒˠa]
  • шя /ʃa/ [ʃˠa]ша /ʃa/ [ʃˠa]

文字 ч, щ の場合

ч, щ は常に軟子音を表す文字です。

これらの文字の後に ыиюуяа、どちらを綴っても発音は変わりませんが、必ず и, у, а を綴ります。

  • чы /tɕi/ [t͡ɕi]чи /tɕi/ [t͡ɕi]
  • щы /ɕːi/ [ɕːi]щи /ɕːi/ [ɕːi]
  • чю /tɕu/ [t͡ɕʉ]чу /tɕu/ [t͡ɕʉ]
  • щю /ɕːu/ [ɕːʉ]щу /ɕːu/ [ɕːʉ]
  • чя /tɕa/ [t͡ɕæ]ча /tɕa/ [t͡ɕæ]
  • щя /ɕːa/ [ɕːæ]ща /ɕːa/ [ɕːæ]

文字 ц の場合

ц は常に硬子音を表す文字です。

ц の後に юуяа、どちらを綴っても発音は変わりませんが、必ず у, а を綴ります。

  • цю /tɕu/ [t͡ɕʉ]цу /tɕu/ [t͡ɕʉ]
  • ця /tɕa/ [t͡ɕæ]ца /tɕa/ [t͡ɕæ]

また、ц の後に ыи のどちらを綴っても発音は変わりませんが、単語の語尾の部分では ы を綴ります。

  • цы /tsi/ [t͡sɨ]
    • отцы /oˈttsi/ [ɐˈt̚t͡sɨ]отец「父」の複数主格形
  • ци /tsi/ [t͡sɨ]
    • станция /ˈstantsija/ [ˈstant͡sɨjə]「駅」
      (語幹 /stantsij/ + 語尾 /a/

正書法の規則が適用される例

実際の単語の語形変化で、正書法の規則が適用される例をいくつか挙げます。

名詞の複数主格形

子音で終わる男性名詞や /a/ で終わる女性名詞の複数主格は、語尾が /i/ になります。語幹が硬子音で終わる場合は ы、軟子音で終わる場合は и を綴ることになります。

このとき、語幹が г, к, х, ж, ч, ш, щ で終わる場合は、正書法の規則が適用されるため、常に и が書かれます。

  • урокыуроки 授業(単数主格は урок
  • карандашыкарандаши 鉛筆(単数主格は карандаш
  • книгыкинги 本(単数主格は книга
  • студенткыстудеитки 女子学生(単数主格は студентка


形容詞の長語尾形

形容詞の長語尾形の主格語尾は、男性 /ij/、中性 /oje/、女性 /aja/、複数 /ije/ です。

形容詞の変化のタイプは、硬変化型と軟変化型に大きく分けられます。

文字の綴りでは、形容詞の語幹が硬子音で終わる場合は、男性 ый、中性 ое、女性 ая、複数 ые となります。ここで、語幹が г, к, х で終わる場合、男性と複数では ы を書くことができず、代わりに и を書くので ий, ие となります。

  • русскыйрусский ロシアの(男性主格)
  • русскыерусские ロシアの(複数主格)

また、語幹が軟子音で終わる場合は、男性 ий、中性 ее、女性 яя、複数 ие と綴ります。語幹が ж, ч, ш, щ で終わる場合、女性では я を書くことができず、代わりに а を書くので ая となります。

  • хорошяяхорошая よい(女性主格)
補足

文字 ж, ш は、現代ロシア語では硬子音に分類されますが、歴史的にはもともと軟子音でした。このため、単語が変化するときには、基本的に軟子音であるかのように振る舞います。

ですから хороший は、軟変化の形容詞として変化すると考えるのが基本です。

動詞の現在変化形

動詞の現在変化形で、単数1人称の語尾は /u/ です。基本的に動詞語幹は軟子音で終わるので、綴りでは ю となります。ここで、動詞語幹が ж, ч, ш, щ で終わる場合は、ю を書けないので、代わりに у を書きます。

  • пишюпишу 書く(単数1人称:不定形は писать、現在語幹は пиш
  • учюучу 教える(単数1人称:不定形は учить、現在語幹は уч

動詞の複数3人称の語尾でも同じようなことが起こります。第1変化動詞では ют、第2変化動詞では ят を書けないので、代わりに утат を書きます。

  • пишютпишут 書く(複数3人称:不定形は писать、現在語幹は пиш
  • учятучат 教える(複数3人称:不定形は учить、現在語幹は уч

例外的な発音

ロシア語の綴りは、発音とのギャップが少なく、かなり表音的だといえます。それでも、綴り通りに発音しないパターンもあります。

例外的な発音をする例をいくつか挙げます。

сш зш

сш, зш は、шш と綴られたかのように /ʃː/ [ʃˠː] と発音されます。硬子音の ш の長音です。

  • сшить /ʃːitʲ/ [ʃˠːɨtʲ] 縫う(完了体)

сж зж

сж, зж は、жж と綴られたかのように /ʒː/ [ʒˠː] と発音されます。硬子音の ж の長音です。

  • сжать /ʒːatʲ/ [ʒˠːatʲ] 握りしめる(完了体)

сч зч жч

сч, зч は、щ と綴られたかのように /ɕː/ [ɕː] と発音されます。

  • счастье /ˈɕːastʲe/ [ˈɕːæsʲtʲə] 幸福

жч も、単語によっては同じように щ と綴られたかのように発音されます。

  • мужчина /muˈɕːina/ [mʊˈɕːinə] 男性

стн здн стл

стн, здн, стл は、真ん中の тд を脱落して発音されます。

  • известный /iˈzvʲesnij/ [ɪˈzvʲesnɨʝ] 有名な
  • поздно /ˈpozno/ [ˈpoznə] 遅く、遅い
  • счастливый /ɕːaˈslʲivij/ [ɕːɪˈsʲlʲivɨʝ] 幸福な

что

что とその派生語(чтобы, что-то, что-нибудь など)では、чш のように発音します。ただし、нечто は綴り通りに /ˈnʲetɕto/ [ˈnʲet͡ɕtə] と発音します。

  • что /ʃto/ [ʃˠto]
  • чтобы /ˈʃtobi/ [ˈʃˠtobɨ] ~するために
  • что-то /ˈʃtoto/ [ˈʃˠtotə] (特定の)何か
  • что-нибудь /ˈʃtonibutʲ/ [ˈʃˠtonɪbʊtʲ] (不特定の)何か

чн

чншн と綴られたかのように発音する単語があります。

  • конечно /koˈnʲeʃno/ [kəˈnʲeʃˠnə] もちろん
  • скучно /ˈskuʃno/ [ˈskuʃˠnə] 退屈だ、寂しい

гк

гкхк と綴られたかのように発音する単語があります。

  • легко /lʲeˈxko/ [lʲɪˈxko] 簡単だ
  • мягкий /ˈmʲaxkʲij/ [ˈmʲæxkʲiʝ] 軟らかい

ого его

形容詞や代名詞の男性・中性生格形で、ого, егогв と綴られたかのように発音します。

  • нового /ˈnovovo/ [ˈnovəvə] 新しい(男性・中性生格)
  • его /jeˈvo/ [jɪˈvo] 彼、それ(男性・中性生格)、彼の(所有代名詞)
  • чего /tɕeˈvo/ [t͡ɕɪˈvo] 何(生格)
  • кого /koˈvo/ [kɐˈvo] 誰(生格)
  • сегодня /sʲeˈvodnʲa/ [sʲɪˈvodʲnʲə] 今日
補足

сегодня は、古東スラヴ語の сего дьне(「この日」の生格)が語源と考えられています。

ться тся

ロシア語には、語末に -ся の付いた ся動詞という動詞があります。この動詞の不定形に現われる -ться や、現在変化の3人称形に現われる -тся は、どちらも /ttsa/ [t̚t͡sə] と発音します。

  • учиться /uˈtɕittsa/ [ʊˈt͡ɕit̚t͡sə] 学ぶ(不完了体)(不定形)
  • учится /ˈutɕittsa/ [ˈut͡ɕɪt̚t͡sə] 学ぶ(不完了体)(現在形、単数3人称)
  • учатся /ˈutɕattsa/ [ˈut͡ɕɪt̚t͡sə] 学ぶ(不完了体)(現在形、複数3人称)

ович евич

父称の男性形に現われる -ович, -евич は、口語ではそれぞれ -ыч, -ич と綴られたかのように発音することがあります。

  • Иванович /iˈvanitɕ/ [ɪˈvanɨt͡ɕ] Иван の父称の男性形
  • Николаевич /nikoˈlaitɕ/ [nʲɪkɐˈlˠaɪt͡ɕ] Николай の父称の男性形

二重子音字

同じ子音字が続けて綴られているものを、ここでは二重子音字と呼びます。

二重子音字には、次の2つの読み方があります。

  • 1つの子音(単子音)として発音する
  • 2つの子音の連続(長子音)として発音する

単子音と長子音のどちらで発音するかは、単語によって決まっています。このため、辞書で1つ1つ確認しなければなりません。

単子音として発音する単語では、子音字が2つ並んで綴られていても、1つの子音として発音します。

  • Россия /roˈsʲija/ [rəˈsʲijə] ロシア
  • теннис /ˈtenʲis/ [ˈtɛnʲɪs] テニス

長子音として発音する単語は、1つの子音を長く、長子音として発音します。文字の綴り通りに2つの子音が連続していると考えても問題ありません。

  • касса /ˈkassa/ [ˈkasːə] または [ˈkassə] レジ
  • Анна /ˈanna/ [ˈanːə] または [ˈannə] アンナ(女性の名)

当サイトでは、二重子音字を長子音として発音する単語は、分かりやすさのため、子音の発音記号を並べて [ˈkassə] のように発音を表すことにします。

まとめ

正書法の規則は、ロシア語を学習するときにとても重要な決まり事なので、きちんと身につける必要があります。

名詞や形容詞、動詞の変化を学習すると、正書法の規則が関係する変化形がよく出てきますので、自然と覚えられると思います。

また、ここで説明した例外的な発音をする綴り字が含まれていても、規則的に発音する単語もあります。ひとつひとつ辞書で発音を確認する必要があります。

参考文献
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