ロシア語の名詞の格変化(第3変化)【初級ロシア語】

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ロシア語の名詞の格変化のうち、第3変化とよばれる変化タイプについて説明します。

第3変化には、語幹末が軟子音で終わっていて単数主格形に語尾のない女性名詞や、語末が -/mʲa/ の中性名詞が含まれます。

この他に、матьдочьпуть といった、例外的な変化をする単語があります。

文字で綴るときには、正書法の規則が適用されることにも注意してください。

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名詞の変化の概要

名詞の特徴

名詞は、人や物、事を指し示す働きをする単語です。ロシア語の名詞には、次のような特徴があります。

  • 性(せい)の区別がある:男性、中性、女性
  • 数(すう)によって形が変わる:単数、複数
  • 格(かく)によって形が変わる:主格、対格、生格(属格)、前置格、与格、造格(具格)

ロシア語の名詞は、3つのグループに分類されます。このグループを伝統的に、男性名詞(だんせいめいし)、中性名詞(ちゅうせいめいし)、女性名詞(じょせいめいし)と呼んでいます。このため、名詞には「性の区別」があると言ったりします。

また、ロシア語の名詞は、指し示す人や物・事が1人・1個であるか、2人・2個以上であるかによって、形が変わります。この区別を(すう)といいます。ロシア語の名詞は、単数(たんすう)か複数(ふくすう)かによって形が変わります。

そして、ロシア語の名詞は、文の中でどのような役割を果たしているかを示すために形が変わります。この役割を(かく)といいます。

そして、数や格によって名詞の形が変わることを曲用(きょくよう)と呼びますが、ここでは、一般的によく使われるように「格変化(かくへんか)」と呼ぶことにします。

名詞の格変化の分類

ロシア語の名詞の格変化のしかたには、大きく分けて次の3つの変化パターンがあります。

  • 第1変化:多くの男性名詞、多くの中性名詞
  • 第2変化:多くの女性名詞、一部の男性名詞
  • 第3変化:一部の女性名詞、一部の中性名詞

名詞が、男性、中性、女性名詞のどれに分類されるかによって変化パターンが決まっているのではありません。同じような変化をする名詞を集めて、第1、第2、第3変化の変化パターンに分類したのです。

しかし、男性名詞と中性名詞の多くは第1変化で変化し、女性名詞の多くは第2変化で変化します。このため、多くの教科書では、名詞の性の区別と変化パターンとを関連させて記述しています。

名詞が格変化するときに、形の変わらない部分を語幹(ごかん)、語幹より後ろの形の変わる部分を語尾(ごび)といいます。格変化とは、語尾がどのように変化するかということです。

補足

多くの教科書では、文字を基本にして変化を考えています。しかし、本来は音(音素)を基本にして考えるのが本質的です。

音素については、次の記事で説明していますので参考にしてください。

音声学と音韻論、音声と音素の違い

ここでは、音(音素)を基本として、第3変化のパターンを説明します。名詞の変化を文字の綴りとして考えるときには、次の点を考慮する必要があります。

  • 語幹末が /ʒ, ʃ, ts/(文字の綴りで ж, ш, ц)の名詞は、語幹末が軟子音であるとして考える
  • 正書法の規則を適用する
    • /ɡ, k, x/(文字の綴りで г, к, х)の直後に /i/ が来ると、ы ではなく и と綴る
    • /ʒ, tɕ, ʃ, ɕː/(文字の綴りで ж, ч, ш, щ)の直後に /i, u, a/ が来ると、ы, ю, я ではなく и, у, а と綴る
    • /ts/(文字の綴りで ц)の直後に /u, a/ が来ると、ю, я ではなく у, а と綴る
    • /ts/(文字の綴りで ц)の直後に /i/ の語尾が来ると、и ではなく ы と綴る

この後の説明で、単語の中の赤字の母音字は、その母音にアクセントがおかれることを表しています。

補足

伝統的なロシア語学では、6つの格を一覧にするときに、
 主格、生格、与格、対格、造格、前置格
の順に並べています。当サイトでは、
 主格、対格、生格、前置格、与格、造格
の順に並べています。これは、名詞や形容詞が同じ形になる格どうしを、隣り合うように並べることによって、変化形どうしの関連を意識しやすくするためです。

第3変化の格変化(女性名詞)

第3変化の名詞は、語幹末が軟子音で終わっていて、単数主格の語尾がありません。ほとんどが女性名詞ですが、特殊な変化をする一部の中性名詞もこの変化タイプに含まれます。ここでは女性名詞について説明します。

この変化タイプの名詞の格変化の語尾は、次のようになります。

音素による第3変化(女性名詞)の格変化の語尾
語幹末
軟子音
ペアの
軟子音
-/ʒ/
-/tɕ/
-/ʃ/
-/ɕː/
単数主格-∅
対格=主格
生格-/i/
前置格-/i/
与格-/i/
造格-/ju/
複数主格-/i/
対格=主格 / 生格
生格-/ej/
前置格-/ax/
与格-/am/
造格-/amʲi/

多くの教科書のように、文字の綴りで変化の語尾を表すと、次のようになります。

文字による第3変化(女性名詞)の格変化の語尾
語幹末
軟子音
ペアの
軟子音



単数主格
対格=主格
生格
前置格
与格
造格-ью
複数主格
対格=主格 / 生格
生格-ей
前置格 -ях -ах
与格 -ям -ам
造格 -ями -ами

単数の格変化

単数主格には語尾がありません。文字の綴りでは、語幹末がペアの軟子音で終わっていれば、それが軟子音であることを表すために を付けます。語幹末が -ж, ч, ш, щ のときは を付けても付けなくても発音は変わりませんが、必ず を付けます。

単数対格は、不活動体名詞でも活動体名詞でも単数主格と同じ形になります。

単数生格単数前置格単数与格-/i/ です。文字の綴りでは となります。

単数造格-/ju/ です。文字の綴りでは、単数主格と同じように、語幹末が軟子音であることを表すために を付けて、さらに を付けます。結果として -ью と綴ります。

複数の格変化

複数主格-/i/ です。文字の綴りでは となります。

複数対格は、不活動体名詞ならば複数主格と同じ形、活動体名詞ならば複数生格と同じ形になります。

複数生格-/ej/ です。文字の綴りでは -ей となります。

複数前置格-/ax/ です。文字の綴りでは -ях ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ のときは -ах となります。

複数与格-/am/ です。文字の綴りでは -ям ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ のときは -ам となります。

複数造格-/amʲi/ です。文字の綴りでは -ями ですが、正書法の規則によって、-ж, ч, ш, щ のときは -ами となります。

格変化の例

第3変化(女性名詞)の格変化の例
語幹末
軟子音
ペアの
軟子音



ノートもの
単数主格 тетрадь вещь
対格 =主格 =主格
生格 тетради вещи
前置格 тетради вещи
与格 тетради вещи
造格 тетрадью вещью
複数主格 тетради вещи
対格 =主格 =主格
生格 тетрадей вещей
前置格 тетрадях вещах
与格 тетрадям вещам
造格 тетрадями вещами

表の中の    は、正書法の規則によって綴りが変わった部分です。

単数生格・前置格・与格と複数主格の語尾が -/i/(文字の綴りで )と、同じ形になるのが、第3変化の特徴です。

例外的な格変化

матьдочь(女性名詞)

мать「母」と дочь「娘」は、単数主格と単数対格以外で、語幹が -/erʲ/(文字の綴りで -ер)だけ長くなりますが、語尾は第3変化の女性名詞とほぼ同じです。

第3変化(女性名詞)の格変化の例
単数主格 мать дочь
対格 =主格 =主格
生格 матери дочери
前置格 матери дочери
与格 матери дочери
造格 матерью дочерью
複数主格 матери дочери
対格 =生格 =生格
生格 матерей дочерей
前置格 матерях дочерях
与格 матерям дочерям
造格 матерями дочерьми

дочь の複数造格は、дочерьми と特殊な形ですが、話し言葉では規則的な形の дочерями となる場合があります。

путь(男性名詞)

путь「道」は、語幹末が軟子音で終わる男性名詞です。しかし、第1変化ではなく、第3変化の女性名詞と似たような変化をします。

ただし、単数造格が -/ju/ ではなく、-/om/ という語尾が付いて、путём となることに注意してください。

путь(男性名詞)の格変化
単数主格 путь
対格 =主格
生格 пути
前置格 пути
与格 пути
造格 путём
複数主格 пути
対格 =主格
生格 путей
前置格 путях
与格 путям
造格 путями

第3変化の格変化(中性名詞)

単数主格形が -/mʲa/(文字の綴りで -мя)で終わる中性名詞がいくつかあります。ここでは、この変化タイプの名詞も、第3変化に含めて考えます。

この変化タイプの名詞は、現代ロシア語には10語しかありません。これらは本来、語幹が -/mʲen/ で終わる単語です。単数主格(と対格)では、母音が変化してしまっています。

格変化の語尾は、次のようになります。

音素による第3変化(中性名詞)の格変化の語尾
語幹語尾
単数主格-/mʲa/
対格=主格
生格-/mʲenʲ/-/i/
前置格-/mʲenʲ/-/i/
与格-/mʲenʲ/-/i/
造格-/mʲenʲ/-/em/
複数主格-/mʲen/-/a/
対格=主格
生格-/mʲon/
前置格-/mʲen/-/ax/
与格-/mʲen/-/am/
造格-/mʲen/-/amʲi/

なお、本来の語幹末 -/mʲen/ にアクセントがあるときは、-/mʲon/ となります。

多くの教科書のように、文字の綴りで変化の語尾を表すと、次のようになります。

文字による第3変化(中性名詞)の格変化の語尾
語幹語尾
単数主格-мя
対格=主格
生格-мен
前置格-мен
与格-мен
造格-мен-ем
複数主格-мен
対格=主格
生格-мён
前置格-мен-ах
与格-мен-ам
造格-мен-ами

なお、本来の語幹末 -мен にアクセントがあるときは、-мён と綴ります。

補足

教科書によってはこの変化タイプの名詞を、第4変化としたり、特殊変化の中性名詞に分類したりしています。

単数の格変化

単数主格は、語末が -/mʲa/ という形になります。文字の綴りでは -мя です。

補足

共通スラヴ語の時代には、-/men/ が鼻母音化した -/mẽ/ という形でした。ロシア語では、さらに -/mʲa/ へと変化しました。

単数対格は、単数主格と同じ形です。

単数生格単数前置格単数与格は、本来の語幹 -/mʲen/ に語尾 -/i/ が付きます。このとき、語幹末の /n/ が軟子音に変わるため、-/mʲenʲi/ となります。文字の綴りでは -мени です。

単数造格は、本来の語幹 -/mʲen/ に語尾 -/em/ が付きます。このとき、語幹末の /n/ が軟子音に変わるため、-/mʲenʲem/ となります。文字の綴りでは -менем です。

複数の格変化

複数主格は、本来の語幹 -/mʲen/ に語尾 -/a/ が付くため、-/mʲena/ となります。文字の綴りでは -мена です。

複数対格は、複数主格と同じ形です。

複数生格には語尾がありません。本来の語幹にアクセントがおかれて、-/mʲon/ となります。文字の綴りでは -мён です。

ただし、一部の単語(семя「種子」、стремяあぶみ」)では例外的に -/mʲan/(文字の綴りで -мян)となります。

複数前置格は、本来の語幹 -/mʲen/ に語尾 -/ax/ が付くため、-/mʲenax/ となります。文字の綴りでは -менах です。

複数与格は、本来の語幹 -/mʲen/ に語尾 -/am/ が付くため、-/mʲenam/ となります。文字の綴りでは -менам です。

複数造格は、本来の語幹 -/mʲen/ に語尾 -/amʲi/ が付くため、-/mʲenamʲi/ となります。文字の綴りでは -менами です。

補足

бремя「重荷」、вымя「家畜の乳房」、пламя「炎」、темя「頭頂部」の4語は、複数形は使われません。

格変化の例

第3変化(中性名詞)の格変化の例
時間 名前 種子
単数主格 время имя знамя семя пламя
対格 =主格 =主格 =主格 =主格 =主格
生格 времени имени знамени семени пламени
前置格 времени имени знамени семени пламени
与格 времени имени знамени семени пламени
造格 временем именем знаменем семенем пламенем
複数主格 времена имена знамёна семена
対格 =主格 =主格 =主格 =主格
生格 времён имён знамён семян
前置格 временах именах знамёнах семенах
与格 временам именам знамёнам семенам
造格 временами именами знамёнами семенами

время「時間」と имя「名前」の変化が基本です。

знамя「旗」の複数形では、語幹末の母音にアクセントがおかれるので、-/mʲon/(文字の綴りで -мён)が現われます。

なお、あまり使われない残りの5語を含めて、この変化タイプの10語の単数主格形を挙げておきます。

  • время「時間」
  • имя「名前」
  • знамя「旗」
  • семя「種子」
  • пламя「炎」
  • племя「種族」
  • стремяあぶみ
  • бремя「重荷」
  • вымя 「家畜の乳房」
  • темя「頭頂部」

まとめ

ロシア語の名詞の格変化のうち、第3変化とよばれる変化タイプについて説明しました。

第3変化には、語幹末が軟子音で終わっていて単数主格形に語尾のない女性名詞や、語末が -/mʲa/ の中性名詞が含まれます。

第3変化の名詞の語尾を簡単にまとめると、次の表のようになります。

音素による第3変化の格変化の基本的な語尾
女性名詞中性名詞
単数主格 -∅ -/mʲa/
対格 =主格 =主格
生格 -/i/ -/mʲenʲ/-/i/
前置格 -/i/ -/mʲenʲ/-/i/
与格 -/i/ -/mʲenʲ/-/i/
造格 -/ju/ -/mʲenʲ/-/em/
複数主格 -/i/ -/mʲen/-/a/
対格 =主格 / 生格 =主格
生格 -/ej/ -/mʲon/
前置格 -/ax/ -/mʲen/-/ax/
与格 -/am/ -/mʲen/-/am/
造格 -/amʲi/ -/mʲen/-/amʲi/

この他に、матьдочьпуть といった、例外的な変化をする単語があります。

文字で綴るときには、正書法の規則のうち、次の規則が適用されることにも注意してください。

  • /ʒ, tɕ, ʃ, ɕː/(文字の綴りで ж, ч, ш, щ)の直後に /a/ が来ると、я ではなく а と綴る
参考文献
佐藤 純一(著)
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匹田 剛(著)
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