白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。
当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。
タタール語を一気に学習しているこのシリーズは今回が最終回となります。
タタール語チャレンジの11日目は、最終課の第19課と第20課です。タタール語の可能を表す表現や補助動詞を使った表現を学習します。
タタール語チャレンジの進め方
『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。
全20課を1日に2課ずつ学習を進めて、その様子を記事にしています。
タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。
この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。
白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。
第19課
可能・不可能の表現
可能や不可能を表す表現をいくつかまとめて学習します。
第13課では、動詞の不定形+мөмкин が、「~するかもしれない」という可能性や、「~することができる」という可能の意味を表すことを学びました。
ここでは、その他に、主に副動詞と補助動詞を使って可能・不可能を表す表現を学びます。
形 | 表す意味 |
---|---|
副動詞 -а + ал- | 主語の内的条件による可能・不可能 |
副動詞 -а + бел- | 主語の能力や技術による可能・不可能 |
副動詞 -ып + бул- 不定形+ бул- |
客観的な事実による可能・不可能 |
副動詞 -а + ал-
-а 形の副動詞に、補助動詞 ал-「取る、得る」を続けることで、「~できる」という可能の意味を表すことができます。
これは、主語の内的条件によって可能・不可能であることを表すとあります。つまり、主語自身の都合や条件が理由となって、可能・不可能が決まるような事柄を表します。
たとえば、「私は、時間があるので、行くことができる」のような場合です。
副動詞 -а + бел-
-а 形の副動詞に、補助動詞 бел-「知る」を続けることで、「~できる」という可能の意味を表すことができます。
これは、主語の能力や技術によって可能・不可能であることを表します。
副動詞 -ып + бул-
-ып 形の副動詞に、補助動詞 бул-「なる」を続けることで、「~できる」という可能の意味を表すことができます。
これは、客観的に可能・不可能な事柄を表します。
また、「動詞の不定形+補助動詞 бул-」でも、同じ意味を表すことができます。この場合の бул- はふつう現在形で、基本的に否定文では使われません。
「副動詞 -ып + бул-」、「不定形+ бул-」のどちらの表現でも、主語は置かれず、補助動詞 бул- には人称の付属語は付きません。
動詞の意図形
動詞の意図形は、「~するつもりだ」のように、話し手の意図を表します。
意図形は、動詞の語幹に -макчы / -мәкче を付けて表します。
意図形そのものには否定形はありませんが、「~するつもりではない」のような否定表現は、意図形の後に түгел を置いて作ることができます。ただし、この表現はあまり多くは使われないようです。
また、主語が1・2人称の場合は人称の付属語が付くことがありますが、人称代名詞がある場合は付かないこともあると、本書には書かれています。
このように、意図形は文の述語として使われることもありますが、むしろ、その後ろに бул-「である」を置いて使われることの方が多いようです。
この場合、否定文はほとんど使われません。
第20課
補助動詞を使った表現
第19課では、可能・不可能の表現の中で、いくつかの補助動詞を学びました。
その他にも、副動詞の後ろに置かれていろいろな意味を表す補助動詞があります。
形 | 意味 | |
---|---|---|
副動詞 -а + | яз- | ~しそうになる、~しそこなう |
башла- | ~しはじめる | |
бар- | ~していく | |
күр- | ~するように!、~しないで! | |
副動詞 -ып + | куй- | ~しておく |
кара- | ~してみる、~しようとする | |
тор-, йөр-, утыр-, ят- | ~している | |
бет-, бетер-, чык- | ~してしまう、~し終える、~しきる |
未遂「~しそうになる」、「~しそこなう」
副動詞 -а 形の後に яз-「損なう」を続けて、「~しそうになる」、「~しそこなう」のように、動作が起こりそうになることを表します。
開始「~しはじめる」
副動詞 -а 形の後に башла-「はじめる」を続けて、「~しはじめる」のように、動作がはじまることを表します。
進展「~していく」
副動詞 -а 形の後に бар-「行く」を続けて、「~していく」のように、動作が進展することを表します。
懇願・注意「~するように!」、「~しないで!」
副動詞 -а 形の後に күр-「見る」の命令形を続けて、肯定ならば「~するように!」、否定ならば「~しないで!」のように、懇願したり注意したりする意味を表します。
準備「~しておく」
副動詞 -ып 形の後に куй-「置く」を続けて、「~しておく」のように、前もって動作を行なうことを表します。
試行「~してみる」、「~しようとする」
副動詞 -ып 形の後に кара-「見る」を続けて、「~してみる」、「~しようとする」のように、試しに動作を行なうことを表します。
進行・継続「~している」
副動詞 -ып 形の後に тор-「立つ」、йөр-「歩く」、утыр-「座る」、ят-「横たわる」を続けて、「~している」のように、動作が進行・継続することを表します。
それぞれの補助動詞の本来の意味が、補助動詞としての意味にニュアンスを付け加わるので、それぞれ、立ちながら、動きながら、座りながら、その場で、動作が行なわれることを表す傾向があります。
完了「~してしまう」、「~し終える」、「~しきる」
副動詞 -ып 形の後に бет-「終わる」、бетер-「終える」、чык-「出る」を続けて、「~してしまう」、「~し終える」、「~しきる」のように、動作が完了することを表します。
бет- は自動詞に付き、бетер- は他動詞に付きます。それぞれの単語が本来、自動詞的、他動詞的な意味を持つからですね。
чык- は自動詞にも他動詞にも付いて、動作が一定の時間をかけて完了する意味を表します。
不定人称文と一般人称文
タタール語には、ロシア語のように、不定人称文や一般人称文があるようです。
不定人称文
不定人称文は、動作を行なう主語には焦点をあてず、行なわれる動作に焦点を当てて表現する文です。
不定人称文では、主語は置かれず、動詞は3人称複数の形になります。動詞には、主語が複数であることを表すための複数の接尾辞と同じ形の語尾が付きます。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
鼻音(м, н, ң)以外で終わる名詞 | -лар | -ләр |
鼻音(м, н, ң)で終わる名詞 | -нар | -нәр |
一般人称文
一般人称文は、誰にでも当てはまる一般的な事柄を表す文です。ロシア語ではこのような文を普遍人称文と呼んだりします。「一般に~だ」、「一般に~というものだ」のような意味を表します。
一般人称文では、主語は置かれず、動詞は2人称単数の形になります。
練習問題
日本語の文からタタール語の文を作る練習問題を通じて、文法をおさらいしましょう。
(1) 君は女の子たちにも手を上げることができるのか?
「女の子たちに手を上げることができる」という可能の表現です。
これは、能力や技術として可能であるかどうかを聞いているのではなく、また、「ここでは手を上げることが許されている」というような客観的に可能かどうかを聞いているのでもありません。
ですから、主語の内的条件によって可能であるかどうかを尋ねていると解釈するのが自然でしょう。その場合、副動詞 -а 形+ ал- という表現を使って表すことができます。
кыз「女の子」に複数接尾辞 -лар を付けて、さらに方向格の接尾辞 -га を付けることで、кызларга「女の子たちに」となります。
「女の子たちにも」の「も」は、添加の付属語 да ですね。
「手を上げることができるのか?」は、кул күтәр-「手を上げる」を副動詞 -а 形にした кул күтәрә に、ал- の現在形の疑問形を続ければ良さそうです。
ал- の現在形は ала で、主語が「君」ですから2人称単数の人称の付属語 -сың を付けて、さらに疑問の付属語 мы を続ければ出来上がりです。
Кызларга да кул күтәрә аласыңмы?
(2) 私は泳ぐことができません。
「泳ぐことができない」のは、能力や技術としてできないということですから、副動詞 -а 形+ бел- を使って表すことができます。
йөзә бел- の現在形は йөзә белә ですが、その否定形は йөзә белми となりますね。この文の主語は「私」ですから、1人称単数の人称の付属語を付けて йөзә белмим です。
解答としては Йөзә белмим. でも構いませんが、模範解答は主語の人称代名詞を付けた形になっています。
Мин йөзә белмим.
(3) 未来は前もって知ることはできません。
「未来を知ることができない」のは、主語の内的条件でも主語の能力でもなく、一般的、客観的な不可能な事柄ですね。このような場合は、副動詞 -ып 形+ бул- で表します。
бел-「知る」の副動詞 -ып 形は белеп となって、これに бул- の現在形の否定 булмый を続けます。
客観的な可能・不可能を表すこの形の文では、人称代名詞や人称の付属語は付きません。
問題文の「未来は」は主語ではなく、「未来を知る」のように目的語です。ですから киләчәк「未来」に対象格の接尾辞を付けて киләчәкне となります。
Киләчәкне алдан (ук) белеп булмый.
(4) 君はどこへ行くつもり?
「行くつもり」は、話し手の意図を表しています。ですから、бар-「行く」に意図形の接尾辞 -макчы を付けて бармакчы となります。
このまま文を終わってもよいですし、2人称単数の人称の付属語を付けて бармакчысың としても構いません。
しかし、意図形は後ろに бул-「である」を続けて使うことが多いのでした。その場合は、бармакчы буласың となります。
бул- に現在形の接尾辞 -а と、2人称単数の人称の付属語 -сың を付けます。
Син кая бармакчы буласың?
(5) 手伝ってよ、何を見ているの!
「手伝ってよ」は、「君」に対する命令形と考えましょう。ярдәм ит そのままでもよいですが、模範解答では、その後に әле を付けた形になっています。
この әле は、命令形や提案形、願望形の文末に置かれて、話し手の意志や提案を強調する働きをします。
「何を見ているの!」は、「見る」動作が継続していることを表しています。副動詞 -ып 形に補助動詞を続けて表現できます。
私は補助動詞 утыр- を使って нәрсә карап утырасың? と作文してみました。何もせずに座って見ている姿をイメージしたからです。
模範解答は тор- を使って нәрсә карап торасың? となっていました。何もせずに立って見ていたのですね。
Ярдәм ит әле, нәрсә карап торасың?
(6) タタール語を君はどうして勉強しはじめたんだい?
「~しはじめる」は、副動詞 -а 形+ башла- で表すことができます。
「タタール語を」は対象格の形で татар телән、「君はどうして」は син нигә でよいですね。
「学びはじめたのか」は、өйрән-「学ぶ」の副動詞 -а 形 өйрәнә に башла- を付けますが、過去形にしなければなりませんから、過去形の接尾辞 -ды と人称の接尾辞 -ң を付けて、өйрәнә башладың? となります。
нигә「なぜ」という疑問詞があるので、疑問の付属語を付けてはいけません。
Татар телән син нигә өйрәнә башладың?
(7) ロシアで人口は減っていっている。
「減っていっている」は少し不自然な日本語に感じますが、動作の進展を表して「減ってきている」という意味だと考えます。
副動詞 -а 形+бар- で表します。бар- が「行く」という動詞なので、日本語でも「減っていく」と表しているのでしょう。
киме- の副動詞 -а 形は кими となります。動詞の語幹の最後の母音を取り除くのでした。кими бара で「減っていっている」の意味となります。
「ロシアで」は位置格の接尾辞を付けます。
なお、халык саны「人口」は、халык「民衆、民族」の сан「数」という作りになっています。
Россиядә халык саны кими бара.
(8) 笑って死にそうになりました。
「~しそうになる」は、副動詞 -а 形+ яз- で表すことができました。
「死にそうになりました」は、主語が「私」であることに気をつけると、үлә яздым となります。1人称単数の人称の接尾辞が付いています。
「笑って」は、「死ぬ」に先行する動作ですから副動詞 -ып 形で表せますね。көлеп です。
副動詞 -а 形を使って көлә とすると「笑いながら死ぬ」ことを表すと思います。
Көлеп үлә яздыи.
(9) まったく話さなければ、舌なしになる。
これはことわざの表現です。ことわざですから、誰にでも当てはまる一般的な事柄であるとして表現するのがよいでしょう。つまり、一般人称文です。
「話さなければ、~」は、仮定形を使って表します。一般的な条件の構文「~するなら~するだろう」は仮定形と不確定未来形の組み合わせで表現できます。
「話さなければ」は仮定形を使って сөйләшмәсә ですが、一般人称文なので2人称単数の人称の接尾辞 -ң を付けて сөйләшмәсәң となります。
「舌なしになるだろう」は不確定未来形を使って телсез булыр ですが、一般人称文ですから動詞は2人称単数の形にします。不確定未来形ですから人称の付属語 -сың を付けて телсез булырсың となります。
さすがに最後は、一般人称文で仮定形と不確定未来形、さらに、人称の付属語と人称の接尾辞を使い分けなければならない、難しい問題でした。
Бөтенләй сөйләшмәсәң, телсез булырсың.
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