タタール語チャレンジ(1日目)【ニューエクスプレスプラス】

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白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。

当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。

2024年1月には同じテュルク諸語の『ニューエクスプレスプラス ウズベク語』が発売されるので、この機会にタタール語をやっつけておきたいと思い、一気に学習することにしました。

ここでは、わたしの学習の様子を記録していこうと思います。初回は、タタール語の文字と発音です。

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タタール語チャレンジの進め方

『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。

タタールスタン共和国のカザンを舞台にした各課の会話はとても魅力的です。しかし、ここで全文を引用することはできません。

ですから、タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。

学習の中で解決できない疑問点は、そのまま「疑問」の枠囲みに書き記しておきます。時間が経ってから解決することもあるでしょう。

全20課を1日に2課ずつ学習を進め、「文字と発音」の章を含めて、全部で11回の記事です。

この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。

櫻間瑞希、菱山湧人(著)
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白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。

補足

管理人は、30年ほど前に「エクスプレス トルコ語」でトルコ語を学んだことがあります。また、タタール語習得には必須のロシア語も学びましたし、近隣の中国語、モンゴル語も学びました。

この経歴はタタール語学習には有利だろうと思って、タタール語にチャレンジすることにしました。

注意

この記事の内容に誤りがあっても、本書の著者さまや出版社さまには無関係です。誤りは当サイト管理人によるものです。

文字と発音

タタール語チャレンジの第1日目は、文字と発音です。

タタール語はテュルク諸語に属していて、バシキール語やカザフ語、キルギス語と近い言語で、トルコ語やウズベク語とも比較的近い言語です。

ロシア連邦のタタールスタン共和国で話されるカザン方言を基礎とした現代標準タタール語が、今回学ぶ対象です。キリル文字による正書法が使われています。

アルファベット

タタール語のアルファベットは、ロシア語と同じ33文字に6文字を加えたものです。

立体斜体基本的な音価立体斜体基本的な音価
А аА а[ɑ~ɒ] П пП п[p]
Ә әӘ ә[æ] Р рР р[r]
Б бБ б[b] С сС с[s]
В вВ в[w] Т тТ т[t]
Г гГ г[ɡ~ɢ~ʁ] У уУ у[u]
Д дД д[d] Ү үҮ ү[ʉ]
Е еЕ е[e] Ф фФ ф[f]
Ё ёЁ ё[jo] Х хХ х[x~χ]
Ж жЖ ж[ʒ] Һ һҺ һ[h]
Җ җҖ җ[ʑ] Ц цЦ ц[t͡s]
З зЗ з[z] Ч чЧ ч[ɕ]
И иИ и[i] Ш шШ ш[ʃ]
Й йЙ й[j] Щ щЩ щ[ɕɕ]
К кК к[k~q] Ъ ъЪ ъ硬音記号, [ʔ]
Л лЛ л[l~lˠ] Ы ыЫ ы[ɤ]
М мМ м[m] Ь ьЬ ь軟音記号, [ʔ]
Н нН н[n] Э эЭ э[e]
Ң ңҢ ң[ŋ] Ю юЮ ю[ju~jʉ]
О оО о[o] Я яЯ я[jɑ~jæ]
Ө өӨ ө[ө]

黄色の欄が、ロシア語アルファベットにはない6文字です。本書には「名称」の欄がありますが、その代わりに「基本的な音価」をわたしが加筆しました。

こまかな発音は後で説明することにして、ここでは簡単に紹介するだけにします。

ә は、国際音声記号(いわゆる発音記号)の [ə] を想像してしまいますが、まったく違う音の [æ] です。

җ[ʑ]ң[ŋ] の子音です。

ө は母音の [ɵ] です。モンゴル語にもありますね。

ү も母音です。モンゴル語にもあるから楽勝!かと思ったら [ʉ] でした。モンゴル語の ү[u] ですね。

һ は声門摩擦音の [h] です。大文字の Һ と小文字の һ を区別しにくいですね。

ロシア語にある文字でも、в[w] であるとか、ч[ɕ] であるとか、注意しなければなりません。

母音

タタール語の母音は9つ、母音を表す文字は10個です。

本書には次のような表が載っています。

後舌前舌
非円唇円唇非円唇円唇
уиү
ыоэ / еө
аә

トルコ語の母音が8つで、狭・広、前舌・後舌、非円唇・円唇の対立で記述できるのと比べると、タタール語の母音の体系は少し複雑に見えます。

疑問

この母音の表は、左側に前舌母音、右側に後舌母音を並べて欲しかったと思います。国際音声記号の母音図を見慣れていると、母音の対応がわからなくなってしまいます。例えば、次のようになっていれば、すんなりと頭に入ってきます。

前舌後舌
非円唇円唇非円唇円唇
и
[i]
ү
[ʉ]
у
[u]
э / е
[e]
ө
[ɵ]
ы
[ɤ]
о
[o]
ә
[æ]
а
[ɑ~ɒ]

後の各課の説明では、接尾辞などを、後舌母音の後の形、前舌母音の後の形の順に説明しているので、それに合わせたのでしょうか。

さて、広母音の а[ɑ] で、第1音節(とそれに続く а)では [ɒ] です。CD音声を聞くと、かなり奥まった音で、タタール語の音声を特徴付けるような重要な母音に思えました。日本語の「ア」では奥行きが全く足りません。しかも第1音節では「ア」よりも「オ」に近いですね。

それに対して ә は、[æ] ということですが、どちらかというと [ɛ] に聞こえることの方が多い印象です。日本語のカナで書けば「エ」です。

続いて中母音です。ы [ɤ] は、口の開きは中位で、奥の方から(後舌母音として)曖昧な「ア」とも「オ」とも「ウ」ともつかない音を出せば良いようです。中国語(普通話)の e を、あまり力まずに発音すればよいでしょう。ロシア語の ы [ɨ] にならないように注意!

前舌・非円唇の [e] は、語頭では э、語中・語末では е の文字で書かれます。カナにすれば「エ」なので、ә [æ] の音と区別が難しいです。口の開きをできるだけ狭くして発音した方が良さそうです。

円唇母音の о [o]ө [ө] は、後舌・前舌母音をはっきりと区別して発音すれば大丈夫です。ө [ө][ø] を発音するくらいの前舌でも問題ないように聞こえます。

最後の狭母音では、у [u]и [i] はロシア語と同じ発音ですね。ү [ʉ] はトルコ語の ü [y] ほど前舌ではないようです。モンゴル語を知っている方は、у [o], ү [u] というモンゴル語の母音と混同しないように注意が必要です。

疑問

本書の中母音の発音記号にはすべて [ ˘ ] が付いています。国際音声記号では「超短」を意味する記号ですが、ここではそのような意味ではないようです。

「力が抜けた曖昧な音」と説明されていますが、音声学的にはどのような音なのでしょうか。

それから、書籍の印刷の都合だと思いますが、[e], [o] には Caron [ ˇ ] の記号が、[ɤ], [ɵ] には Breve [ ˘ ] の記号が付けられています。また、[ɵ][θ] と書いているのは明らかによくないですね。

タタール語には母音調和という、母音の同化現象があります。後舌母音のグループと前舌母音のグループは、ひとつの単語内に同時には現れません。

単語とそれに付く接尾辞との間にも母音調和の現象が現れます。このため、複数の形態を持つ接尾辞があります。ざっと見たところ、タタール語では、広母音 а – ә のタイプと、中母音 ы – е のタイプがあるようです。

トルコ語では、広母音 a – e タイプに加えて、狭母音 ı – u – i – ü タイプがありました。モンゴル語では、а – э – о – ө タイプと у – ү タイプがありました。

借用語では必ずしも母音調和の原則が当てはまりません。特にロシア語からの借用語では、-ь, -ия, -ие で終わる単語には前舌母音を持つ形が、それ以外の単語には後舌母音を持つ形が付くのが基本です。この先、練習問題を解くときに重要となります。

子音

さて、子音です。本書には次のような表が載っています。

両唇音 唇歯音 歯茎音 後部歯茎音 歯茎硬口蓋音 硬口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
破裂音 п
б
т
д
к
г
摩擦音 ф
 
с
з
ш
ж
ч
җ
х
 
һ
 
接近音 в л й
鼻音 м н ң
ふるえ音 р

注意が必要な子音をいくつか挙げます。

к は、前舌母音をもつ音節では軟口蓋破裂音 [k]、後舌母音をもつ音節では口蓋垂破裂音 [q] です。

г は、前舌母音をもつ音節では軟口蓋破裂音 [ɡ] です。後舌母音をもつ音節では口蓋垂破裂音 [ɢ] ですが、口蓋垂摩擦音 [ʁ] である場合が多いそうです。言語学大辞典には「母音間では摩擦音化する」と断言して書かれています。

ш, ж は後部歯茎摩擦音 [ʃ], [ʒ] で、ロシア語のような軟口蓋化した口の奥にこもった音にはならないようです。

ч, җ は歯茎硬口蓋摩擦音ですから、日本語の「シ」のような [ɕ] と、その有声音 [ʑ] です。ш, ж が軟口蓋化しないとなると、ш, жч, җ の音の区別がかなり難しいと思います。

х には [χ] の記号を当てていますが、説明によると軟口蓋摩擦音 [x] から口蓋垂摩擦音 [χ] にかけてバリエーションのある音です。隣り合う母音によって変わるのだと思います。

в は両唇接近音 [w] です。ロシア語からの借用語では、ロシア語と同じように唇歯摩擦音 [v] となります。

л は歯茎側面接近音 [l] ですが、前舌母音をもつ音節では [l]、後舌母音をもつ音節では軟口蓋化して [lˠ][ɫ] とも書きます)になります。いわゆるダークLですね。

ң は軟口蓋鼻音 [ŋ] で、音節のはじめにも置かれます。

р は歯茎ふるえ音 [r] です。はじき音 [ɾ] や接近音 [ɹ] ではありません。

なお、無声子音 к [k], п [p] で終わる単語に、母音で始まる接尾辞が付くと有声化して г [ɡ~ɢ~ʁ], б [b] と発音されて、文字でもそのように綴ります。

このようにして子音の全体を眺めてみると、破擦音がありませんが、ロシア語からの借用語には ц [t͡s] が現れるようです。また、щ[ɕɕ][ɕː] とも書かれます)として発音されます。

タタール語の子音を実際の音価(発音記号)で表すと、次の表のようになります。

両唇音 唇歯音 歯茎音 後部歯茎音 歯茎硬口蓋音 硬口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音 声門音
破裂音 [p]
[b]
[t]
[d]
[k~q]
[ɡ~ɢ]
摩擦音 [f]
 
[s]
[z]
[ʃ]
[ʒ]
[ɕ]
[ʑ]
[x~χ] [h]
 
[ʁ]
接近音 [w] [l~lˠ] [j]
鼻音 [m] [n] [ŋ]
ふるえ音 [r]

注意すべき文字

ここまでの母音や子音を表す文字と発音は、それほど複雑ではありません。

しかし、キリル文字の特徴でもある、子音 [j] と母音の組み合わせを表す文字 е, ю, я が存在することや、アラビア語起源の単語の発音をより適切に表すために、文字の綴りと発音の関係が複雑になる場合があります。

以下に簡単に紹介しますが、詳しくは、そのような単語が出てきたときに説明することにします。

и, у, ү

и[i] ですが、語末の и[ij] の音を表します。

у[u] ですが、後舌母音の後の у[w] を表します。また、音節末の у[uw] を表します。ただし、指示詞の бу [bu]「これ」は例外です。

ү[ʉ] ですが、前舌母音の後の ү[w] を表します。また、音節末の ү[ʉw] を表します。

これらの場合、母音字で終わっていても、発音は子音で終わっていることに注意が必要です。

е, ю, я

次の発音は、キリル文字の特徴がよく現れています。

е[e] ですが、音節のはじめに置かれた е[je]й + е)または [jɤ]й + ы)を表します。

ю[ju]й + у)または [jʉ]й + ү)を表します。また、音節末の ю[juw] または [jʉw] を表します。

я[jɑ]й + а)または [jæ]й + ә)を表します。

ё[jo]й + о)を表します。

е, ю, я は、発音に2つの可能性があることになります。実際には、単語内の母音調和の原則から、どちらの発音であるか分かることが多いです。

э

э は語頭の [e] を表しますが、アラビア語起源の単語では、母音の後にある声門閉鎖音 [ʔ] を表します。ただし、話者によっては、発音されないことがあるようです。

ъ

ъ は硬音記号で、後舌母音をもつ閉音節の後に音節の切れ目があることを表します。アラビア語起源の単語では声門閉鎖音 [ʔ] を表します。

また、アラビア語・ペルシア語からの借用語で、к, г の文字が口蓋垂音 [q], [ɢ~ʁ] であることを表します。

ь

ь は軟音記号で、前舌母音をもつ閉音節の後に音節の切れ目があることを表します。アラビア語起源の単語では声門閉鎖音 [ʔ] を表します。

また、アラビア語・ペルシア語からの借用語で、それより前にある後舌母音の文字を、前舌母音で発音することを表します。

これは、「口蓋垂音 [q], [ɢ~ʁ] + 前舌母音」の発音の組み合わせを書き表すときに、「к, г の文字 + 前舌母音の文字」では、к, г が軟口蓋音 [k], [ɡ] で発音されてしまいます。このため、口蓋垂音 [q], [ɢ~ʁ] であることを示すために後舌母音の文字を書いて、その後の子音に ь を付け加えるのです。

なお、単語によっては、ь が書かれない(書くことができない)場合でも、後舌母音の文字が前舌母音の発音を表すときがあります。

補足

カザフ語では、軟口蓋音を к, г、口蓋垂音を қ, ғ のように区別して書き表すようです。この方法であれば、もう少し正書法がシンプルになったのではないかと思います。

アクセント

タタール語では、アクセントのある音節は強く発音されます。また、同時に高く発音されるのが基本ですが、文のイントネーションによっては、必ずしも高く発音されません。

アクセントは、基本的に単語の最後の音節にあります。最後の音節にアクセントのある単語に接尾辞が付くと、多くの場合は、接尾辞にアクセントが移動します。

最後の音節以外にアクセントのある単語では、接尾辞が付いてもアクセントは移動しません。

参考文献
  • 亀井孝、河野六郎、千野栄一(編著)(1989)『言語学大辞典 第2巻 世界言語編(中)さーに』 三省堂.
櫻間瑞希、菱山湧人(著)
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