白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。
当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。
2024年1月には同じテュルク諸語の『ニューエクスプレスプラス ウズベク語』が発売されるので、この機会にタタール語を一気に学習することにしました。
タタール語チャレンジの6日目は、第9課と第10課です。タタール語の動詞の2種類の未来形を学習します。
タタール語チャレンジの進め方
『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。
全20課を1日に2課ずつ学習を進めて、その様子を記事にしています。
タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。
この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。
白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。
第9課
動詞の不確定未来形
動詞の不確定未来形は、次のような意味を表します。
不確定未来形は、語幹に次のような不確定未来形の接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -р | |
子音で終わる語幹 | -ыр | -ер |
子音で終わる語幹 (特別な場合) | -ар | -әр |
語幹が子音で終わる動詞には、基本的に -ыр / -ер が付きます。
ただし、語幹が1音節で、л, р 以外の子音一つで終わる動詞には、基本的に -ар / -әр が付きます。
動詞の不確定未来形+人称の付属語
主語が1・2人称のときは、動詞の不確定未来形に人称の付属語を付けます。
後舌母音 | 前舌母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 1人称 мин | -мын | -мен |
2人称 син | -сың | -сең | |
複数 | 1人称 без | -быз | -без |
2人称 сез | -сыз | -сез |
不確定未来形の否定
これまでに学習した動詞の現在形や過去形・完了形では、否定語幹に時制の接尾辞を付けることで、否定の意味を表しました。
しかし、不確定未来形の否定は、動詞の語幹に -мас / -мәс を付けた形が基本となります。
主語が1・2人称のときは、これに人称の付属語が付きますが、1人称のときは特別な形になります。
不確定未来形の否定に人称の付属語が付いた形を作るには、語幹に次の表のような形が付きます。
後舌母音 | 前舌母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 1人称 мин | -мам | -мәм |
2人称 син | -массың | -мәссең | |
複数 | 1人称 без | -мабыз | -мәбез |
2人称 сез | -массыз | -мәссез |
第10課
動詞の確定未来形
動詞の確定未来形は、次のような意味を表します。
確定未来形は、次のような確定未来形の接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -ячак | -ячәк |
子音で終わる語幹 | -ачак | -әчәк |
語幹が й [j] で終わる場合は、-ачак / -әчәк が続くことで [jɑ] / [jæ] という発音になるため、文字の綴りでは -ячак / -ячәк となります。
また、語幹が и で終わる語幹は、本来的に [ij] という発音で終わっていると考えられるので、иячәк と綴ることによって [ijæɕæk] という発音を表します。
確定未来形の否定
「~しない(予定だ)」、「(絶対に)~しない」という確定未来形の否定は、否定語幹に確定未来形の接尾辞を付けて表します。 を付けて表します。
このとき、否定語幹は母音で終わるので、-ячак / -ячәк を付けることになります。
動詞の確定未来形+人称の付属語
主語が1・2人称のときは、動詞の確定未来形に人称の付属語を付けます。
後舌母音 | 前舌母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 1人称 мин | -мын | -мен |
2人称 син | -сың | -сең | |
複数 | 1人称 без | -быз | -без |
2人称 сез | -сыз | -сез |
иде を使った過去の表現
過去を表すいろいろな表現に使われる иде という単語があります。
動詞のない文の過去
形容詞が述語の文など、動詞が使われていない文で過去を表す場合、文末に иде「~だった」を置きます。
主語が1・2人称の場合、иде には人称の接尾辞が付きます。これは動詞の過去形に付く接尾辞と同じものです。
後舌母音 | 前舌母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 1人称 мин | -м | |
2人称 син | -ң | ||
複数 | 1人称 без | -к | |
2人称 сез | -гыз | -гез |
過去進行の表現
過去における動作の進行「~していた」を表すには、動詞の現在形の後に иде を置きます。
主語が1・2人称の場合、иде には人称の接尾辞が付きます。
過去完了の表現
過去における動作の完了「~してしまっていた」をあらわすには、動詞の完了形の後に иде を置きます。
主語が1・2人称の場合、иде には人称の接尾辞が付きます。
練習問題
日本語の文からタタール語の文を作る練習問題を通じて、文法をおさらいしましょう。
(1) (君は)明日来るのだよ。
「君は」が( )にくくられていますから、主語は син「君」ですが、明示しなくてもよいという、出題者の意図ですね。
「来るのだよ」をどのような意味に解釈すればよいでしょうか。ここでは、話し手が聞き手に対して「明日ちゃんと来るように」と約束を促していると解釈してみましょう。
そうすると不確定未来形を使うことになります。
кил-「来る」に不確定未来形の接尾辞 -ер を付けて、さらに主語が син ですから2人称単数の人称の付属語 -сең を付けて、килерсең となります。
Иртәгә килерсең.
(2) ハエがとまっていた。
「とまっていた」は、どのような状況を表しているでしょうか。
話し手は、過去のある時を思い浮かべて、その時に「ハエが(既に)とまっていた」と言っているのですね。その時に「ハエがとまった」のではありませんから、過去形ではありません。
「とまる」というのは瞬間的な動作ですから、「とまっていた」というのは動作の進行を表しているのではありません。過去のある時点より前に「とまった」ハエが、ある時点でも「止まった状態が続いていた」ということです。
過去完了の表現を使うのがよさそうです。過去完了は、動詞の完了形の後に иде を付けて表します。
кун-「とまる」に完了形の接尾辞 -ган を付けて、その後に иде を続けます。主語は「ハエ」で3人称単数ですから、人称の接尾辞は付けません。
Чебен кунган иде.
(3) 君は(きっと)とてもよいお父さんになるよ。
「よいお父さんになる」のは未来のことなので、不確定未来形か確定未来形を使うことになりそうです。
「きっと」とあるので、話し手が確信していると考えられるので、確定未来形を使うと考えました。
しかし、模範解答は不確定未来形でした。その理由は分かりません。
ここでは模範解答通りに不確定未来形で文を組み立ててみます。
述語は бул-「なる」ですから、これに不確定未来形の接尾辞 -ыр を付けて、主語が син「君」ですから2人称単数の人称の付属語 -сың を付けます。これで булырсың となります。
Син бик яхшы әти булырсың.
(4) 街はとてもきれいになる予定です!
これも未来のことを表す文です。
「街をきれいにする」計画があって、話し手はそのことを知っている、というような状況でしょうか。
本当にきれいになるかどうかは分からないものの、予定されている未来の出来事は確定未来形で表すようです。
бул-「なる」に確定未来形の接尾辞 -ачак を付けます。主語が3人称単数ですから人称の付属語は付けません。
なお、主語の「街」は、模範解答は шәһәр ですが、кала を使っても良いと思います。
Шәһәр бик матур булачак!
(5) 私は準備できていなかった。
「準備できていなかった」という過去の表現です。
述語は әзер「準備できた」という形容詞ですから、動詞のない文です。その場合は、иде「~だった」を使って過去を表します。
さらに、否定を表す必要があります。動詞であれば否定語幹を使って否定の意味を表しますが、形容詞の場合は түгел「~ではない」を使います。
ですから、 әзер түгел иде の順に並べて、「準備ができていなかった」となります。
主語が мин「私」ですから、人称の接尾辞 -м を忘れないようにしましょう。
Мин әзер түгел идем.
(6) 君はどこにいたんだい?
「どこにいますか?」は、疑問副詞の кайда「どこで、どこに」を述語として使って表すことができます。
動詞のない文ですから、過去を表すには иде「~だった」を使います。
2人称単数の人称の接尾辞 -ң を忘れないようにしましょう。
Син кайда идең?
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