白水社から『ニューエクスプレスプラス タタール語』が2022年12月に発売されて1年が経ちました。
当サイト管理人は、発売直後に購入したものの、ざっと眺めた程度で、ずっと読めずにいました。
2024年1月には同じテュルク諸語の『ニューエクスプレスプラス ウズベク語』が発売されるので、この機会にタタール語を一気に学習することにしました。
タタール語チャレンジの8日目は、第13課と第14課です。タタール語の動詞の不定形と動名詞を学習します。
タタール語チャレンジの進め方
『ニューエクスプレスプラス タタール語』は、白水社から出版された櫻間瑞希さんと菱山湧人さんによるタタール語の入門書です。全20課で構成され、その他に「文字と発音」の章、2課ごとに練習問題があります。
全20課を1日に2課ずつ学習を進めて、その様子を記事にしています。
タタール語文法の概略を説明した後、「日本語文からタタール語の文を作る」練習問題を通して、文法の確認をしていきます。
この記事を通してタタール語に興味を持った方は、ぜひ『ニューエクスプレスプラス タタール語』にチャレンジしてみてください。
白水社のサイトには正誤表が掲載されていますので、あわせて利用してください。
第13課
動詞の不定形
動詞の不定形は、次のような意味を表します。
不定形は、動詞が表す動作そのものを抽象的、一般的に表現した形です。
不定形は、語幹に次のような接尾辞を付けて作ります。
後舌母音 | 前舌母音 | |
---|---|---|
母音で終わる語幹 | -рга | -ргә |
子音で終わる語幹 | -ырга | -ергә |
子音で終わる語幹 (特別な場合) | -арга | -әргә |
これらの接尾辞は、不確定未来形の接尾辞に方向格の接尾辞を付けたものです。
子音で終わる語幹の特別な場合というのは、語幹が1音節で、л, р 以外の子音1つで終わる場合です。
不確定未来形の説明も参照してください。
不定形の否定
不定形の否定は、不確定未来形の否定に方向格の接尾辞を付けます。
不確定未来形の否定は、単純に否定語幹をもとにするのではなく、-мас / -мәс となるのでした。ですから、これに方向格の接尾辞 -ка / -кә を付けます。
不定形の用法
動詞の不定形は、いろいろな意味を表します。
基本となるのは、動詞の動作を抽象的・一般的に名詞として表す使い方で、「~すること」のような意味を表します。名詞的用法と呼んだりします。
名詞の直前に置かれて、形容詞のようにその名詞を修飾する使い方もあります。形容詞的用法と呼んだりします。この場合は「~するための~」のような意味を表します。
副詞と同じように述語を修飾する使い方もあります。副詞的用法と呼んだりします。「~するために」や「~して」のような意味を表します。
また、不定形が主に文末に使われると、「~すべき」という義務や、「~するな」という禁止の意味を表すことがあります。
不定形を用いた表現
動詞の不定形そのものが、文の中でいろいろな意味を表しますが、不定形がほかの単語と組み合わせて使われて、もっと多様な表現が作られます。
不定形+кирәк「~する必要がある」
кирәк は「必要」という名詞です。動詞の不定形と組み合わせることによって「~する必要がある」という意味を表します。
動作主を明示する場合は、方向格の形になります。
不定形+тиеш「~しなければならない」、「~するはずだ」
тиеш は「~しなければならない」という形容詞です。動詞の不定形と組み合わせることによって「~しなければならない」、「~するはずだ」という意味を表します。
動作主を明示する場合は、主格の形になります。この主語が1・2人称の場合は、тиеш に人称の付属語が付くことがあります。
不定形+мөмкин「~するかもしれない」、「~することができる」
мөмкин は「可能だ」という形容詞です。動詞の不定形と組み合わせることによって、「~するかもしれない」という可能性や、「~することができる」という客観的に可能な事実を表します。
動作主を明示する場合は、主格の形になります。この主語が1・2人称の場合は、мөмкин に人称の付属語が付くことがあります。
ただし、「~することができる」という可能の意味の場合、動作主が方向格の形になることもあるようです。
第14課
動名詞
動名詞は、文の中で動詞が名詞の働きをする形です。「~すること」という意味を表します。
動名詞は、動詞の語幹に -у / -ү を付けて作ります。
語幹が ы, е で終わる場合は、その ы, е を取り除いてから -у / -ү を付けます。
また、語幹が й で終わる場合は、й [j] と -у / -ү を合わせて -ю と書きます。
語幹が и で終わる場合は、и の後に ю を付けます。
動名詞の否定
動名詞の否定は「~しないこと」の意味を表します。
否定語幹に -у / -ү を付けるだけです。ですから -мау / -мәү となります。
動名詞の動作主
動名詞が表す動作の動作主は、動名詞に所有接尾辞を付けて表すのが基本です。
さらに、動名詞の前に、動作主を表す名詞・代名詞が所有格の形で置かれることもあります。
このような使い方は、動名詞と同じように「~すること」のような意味を表す不定詞とはかなり異なります。不定詞には、所有接尾辞が付くことはありません。
動名詞に所有接尾辞が付くことで、у, ү の文字が母音に挟まれる場合、у, ү の文字は в の文字に置き換わります。
動名詞を用いた表現
動名詞に格接尾辞が付いたり、後置詞のようなほかの単語と組み合わせて使われて、もっと多様な表現が作られます。
動名詞+өчен「~するために」
өчен は「~のために、~にとって」という意味を表す後置詞です。動名詞と組み合わせることによって「~するために」という動作の目的を表す表現になります。
動名詞+сәбәпле「~するので」
сәбәпле は「~のため、~のせいで」という意味を表す後置詞です。動名詞と組み合わせることによって「~するので」という原因を表す表現になります。
動名詞+方向格+карамастан「~するにもかかわらず」
карамастан は「~にもかかわらず」という意味を表す後置詞です。この前に置かれる名詞などは方向格の付いた形になります。動名詞と組み合わせることによって「~するにもかかわらず」という表現になります。
動名詞+бар「~するかもしれない」
бар はこれまでに何度も学習した「ある、いる」という単語ですね。動名詞と組み合わせることによって「~するかもしれない」という可能性のを表す表現になります。
可能性を表す表現には、不定形+мөмкин という表現もありました。
練習問題
日本語の文からタタール語の文を作る練習問題を通じて、文法をおさらいしましょう。
(1) イギリス人はお茶を飲むことが好きです。
まず主語となる「イギリス人」は、「あるイギリス人」ではなく、「イギリス人は一般に」のような意味ですね。複数形が適切なので инглизләр です。
「お茶を飲む」の「お茶」は、特定のものではありません。また、「飲む」の直前に置くことができますから、対象格の形にする必要はありません。
「~することが好き」という意味を表すには、「~することを好む」という表現を使います。
この場合の「~すること」には、動詞の不定形を使うようです。эч-「飲む」に -ергә を付けて эчергә となります。
「好む」は現在形で良さそうです。ярат- は語幹が子音で終わる後舌母音の単語ですから、-а を付けて ярата です。主語が3人称の「イギリス人」ですから人称の付属語は付ける必要はありませんが、複数なので яраталар のように複数であることを表す語尾を付けることもできます。模範解答では付けていません。
Инглизләр чәй эчергә ярата.
(2) 座るための場所がない。
「~するための~」という形容詞的な表現は、動詞の不定形を使う典型例です。
「座るための場所」で、утырырга урын と表せます。
これに юк「ない」を付ければ完成です。
Утырырга урын юк.
(3) 私たちは大学生たちと話すために来ました。
「~するための~」という形容詞的な使い方ではなく、「~するために」という副詞的な使い方です。
動詞の不定形そのものを使って表す方法と、動名詞+өчен による方法を学習しました。ここでは、動詞の不定形で表してみましょう。
「話す、会話する」は аралаш- や сөйләш- という動詞を使うことができます。これらの不定形は аралашырга または сөйләшергә となります。
「大学生たちと」は、студент「大学生」を複数にして студентлар となって、これに「~と」を表す後置詞 белән を続ければよいでしょう。
最後の「来ました」は、кил-「来る」の過去形 килде に、主語が「私たち」ですから1人称複数の人称の接尾辞 -к を付けます。килдек となりますね。間違えて人称の付属語 -без を付けないようにしましょう。
Без студентлар белән аралашырга (сөйләшергә) килдек.
(4) 修士課程に入るべきか、入らないべきか?
「~すべき」は、動詞の不定形で表現できます。
「入るべき」は керергә、「入らないべき」は кермәскә ですね。それぞれに疑問の付属語を付けると「入るべきか、入らないべきか」を表すことができます。
「修士課程に」は、方向格の形にしましょう。
Магистратурага керергәме, кермәскәме?
(5) 私は牛乳が飲みたいです。
「~したい」は、「~することを望む」のように表現できます。この「~すること」は動詞の不定形でよいでしょう。
эч-「飲む」の不定形は эчәргә となります。
「望みます」は телә-「望む」の現在形に1人称単数の人称の付属語を付ければよいですね。語幹が母音で終わる動詞の現在形は、最後の母音を取り除いてから現在形の接尾辞を付けます。
ですから тел- + -и + -м で телим となります。
Мин сөт эчәргә телим.
(6) あなたはもっとたくさん野菜を食べる必要があります。
「もっとたくさん野菜を」は、「より多くの野菜を」のように「多い」の比較級で表すことができそうです。
比較級は -рак / -рәк を付ければよいので、✕күпрәк となりそうですが、к, п で終わる形容詞はこれを г, б に変えるのでした。このため күбрәк となります。
「~する必要がある」は、動詞の不定形+кирәк で表すことができました。аша-「食べる」の不定形は ашарга です。
これで ✕Сез күбрәк яшелчә ашарга кирәк. という文ができあがりましたが、これでは間違いです。不定形+кирәк の表現では、その動作を行なう動作主は方向格の形で表さなければなりません。
「食べる必要がある」のは「あなた」ですが、сез ではなく сезгә としなければならないのですね。なかなか難しいです。
Сезгә күбрәк яшелчә ашарга кирәк.
(7) リーダーになることが重要だ。
この問題でも「~すること」を、動詞の不定形で表すか、動名詞で表すかが悩みどころです。どちらも可能であるように感じます。
模範解答は動名詞を使っていますので、動名詞で文を組み立ててみましょう。
「リーダーになる」はそのまま лидер бул- でよさそうです。
「なること」を動名詞で表すと、булу ですね。ですから全体で Лидер булу мөһим. となります。
これを動詞の不定形を使って表すと Лидер булырга мөһим. となりますね。
Лидер булу мөһим.
(8) 君が私のことを好きじゃないのは知っている。
「好きじゃないのは知っている」は「好まないことを知っている」ということですね。「好まないこと」を動名詞で表してみましょう。
ярат- を否定にすると яратма- です。動名詞にするので -у を付けて яратмау となります。
「好まない」のは「君」ですから、2人称単数の所有接尾辞を付けます。у は子音で終わっていると考えますから -ың を付けて ✕яратмауың となりそうですが、у の文字が母音に挟まれるので в と綴ります。このため яратмавың となります。
これで終わりではありません。「好まないことを」の「~を」を対象格の形で表します。-ны を付けて яратмавыңны て出来上がりです。
「君が」は、яратмавыңны の中に2人称単数の所有接尾辞で表したので、人称代名詞で明示的に表す必要はありません。
「私のことを」は мин の対象格で мине でよいですね。
最後の「知っている」は、「私が知っている」ということなので、бел- + -ә + -м で беләм となります。現在形の接尾辞と、1人称単数の人称の付属語を付けました。
Мине яратмавыңны беләм.
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