ロシア語の形容詞や副詞の最上級について説明します。
最上級は、самый + 原級(合成型1)、наиболее + 原級(合成型2)、-ейший / -айший(単一形)、比較級 + всего / всех(比較型)、-ший(特殊型)に分けることができます。
いろいろな形があって複雑に感じますが、このうち、話しことばでよく使われるのは、самый + 原級(合成型1)と、比較級 + всего / всех(比較型)です。
用法 | 語尾 | |||
---|---|---|---|---|
修飾的 | 述語的 | 副詞的 | ||
самый + 原級 | ○ | ○ | ✕ | 長語尾 |
比較級 + всего / всех | ✕ | ○ | ○ | 無変化 |
ですから、これらの表現を優先的に学ぶのがよいでしょう。
形容詞自体の形は原級や比較級で、最上級に特有の形は出てきません。この意味で、形容詞や副詞を単一型の比較級(-ее / -е)に簡単に変化できるようになることが重要です。
最上級の概要
形容詞は、人や物、事の性質や特徴、関係性を表す単語で、名詞を修飾したり、述語として使われたりします。
ロシア語の形容詞は、その表す意味に着目すると、性質形容詞、関係形容詞、所有形容詞に分類することができます。
このうち、性質形容詞には、他の物、事の性質と比べて「~より~な」という意味を表す比較級(ひかくきゅう)と、「最も~な」という意味を表す最上級(さいじょうきゅう)とがあります。これに対して、比較の意味を持たない形を原級(げんきゅう)といいます。
また、性質形容詞から作られる副詞にも、比較級や最上級の形があります。
最上級は、他の物や事と比べて「最も~な」の意味を表すのが基本で、これを相対最上級(そうたいさいじょうきゅう)と呼ぶことがあります。
これに対して、他の物や事と比較せずに「きわめて~な」、「非常に~な」のように、ただ程度を強める意味を表すこともあります。これを絶対最上級(ぜったいさいじょうきゅう)と呼びます。
最上級の作り方を、その形と用法、語尾などとともにまとめると次のようになります。
用法 | 語尾 | 文体 | |||
---|---|---|---|---|---|
修飾的 | 述語的 | 副詞的 | |||
самый + 原級(合成型1) | |||||
○ | ○ | ✕ | 長語尾 | 中立 | |
наиболее + 原級(合成型2) | |||||
長語尾形 | ○ | ○ | ✕ | 長語尾 | 書きことば |
短語尾形 | ✕ | ○ | ✕ | 短語尾 | |
副詞 | ✕ | ✕ | ○ | 無変化 | |
-ейший / -айший(単一型) | |||||
○ | ✕ | ✕ | 長語尾 | 書きことば | |
比較級 + всего / всех(比較型) | |||||
✕ | ○ | ○ | 無変化 | 中立 | |
-ший(特殊型) | |||||
○ | ✕ | ✕ | 長語尾 | 中立 |
この後の説明で、単語の中の赤字の母音字は、その母音にアクセントがおかれることを表しています。
最上級の形
самый + 原級(合成型1)
形容詞の最上級でひろく使われる形の一つは、「самый + 形容詞の原級」の形で表現する方法です。ここでは合成型1と呼ぶことにします。
самый は、文法的には定代名詞(ていだいめいし)と伝統的に呼ばれますが、特定代名詞や限定代名詞と呼ぶ方がわかりやすいかもしれません。
самый を形容詞の原級(長語尾形)と一緒に使うことで、「最も~な」という相対最上級の意味を表します。
самый は形容詞の長語尾形と同じように性・数、格変化して形を変えます。また、形容詞の原級も長語尾形ですから、性・数、格変化をします。
合成型1の最上級では、самый は、形容詞の短語尾形や副詞とは結びつきません。形容詞の長語尾形の用法と同じように、修飾的用法や述語的用法で使われます。
また、話しことばでも書きことばでも使われます。
наиболее + 原級(合成型2)
合成型の最上級には、「наиболее + 形容詞や副詞の比較級」という形もあります。ここでは、合成型2と呼ぶことにします。
наиболее は「最も~」という意味の副詞です。наиболее のあとには、形容詞の長語尾形や短語尾形、副詞を置くことができます。
наиболее は副詞ですから形を変えることはありませんが、そのあとの形容詞だけが形を変えます。
形容詞の長語尾形は、修飾的用法や述語的用法で使われます。短語尾形は、述語的用法で使われ、副詞は副詞的に使われます。
「самый + 原級」と同じように、他の物や事と比較して「最も~な」という相対最上級の意味で使います。ただし、書きことば的な表現であることに注意してください。
наиболее を наименее「最も少なく」に変えると、намболее とは反対に、程度が低いことを表す最上級の意味になります。
-ейший / -айший(単一型)
一部の形容詞は、語尾を -ейший や -айший に変えて最上級を作ることができます。
この最上級は、他の物や事と比べるのではなく、「きわめて~な」、「非常に~な」のような絶対最上級の意味を持ちます。
この語尾の付いた最上級は、形容詞の長語尾形と同じ変化をします。修飾的用法として使われ、書きことば的な表現です。
基本的には、形容詞の語幹に -ейший の語尾を付けて作られます。
アクセントは、原級の短語尾女性形のアクセントと同じ場所にあります。このため、-ейший のはじめの е にアクセントがおかれることがあります。
原級 | 最上級 | 意味 |
---|---|---|
интересный | интереснейший | おもしろい |
красивый | красивейший | 美しい |
новый | новейший | 新しい |
ただし、語幹の末尾が /k/, /ɡ/, /x/(文字の綴りでは к, г, х)で終わる形容詞は、それらの子音が交替して /tɕ/, /ʒ/, /ʃ/(文字の綴りでは ч, ж, ш)に変わります。アクセントは、必ず -айший の а におかれます。
原級 | 最上級 | 意味 |
---|---|---|
великий | величайший | 偉大な |
высокий | высочайший | 高い |
редкий | редчайший | 稀な、たまの |
короткий | кратчайший | 短い |
глубокий | глубочайший | 深い |
строгий | строжайший | 厳しい |
дорогой | дражайший | 高価な、大切な |
тихий | тишайший | 静かな |
близкий | ближайший | 近い |
なお、короткий → кратчайший や дорогой → дражайший のように語幹が変わってしまう単語もあります。близкий では、語幹末の к が取り除かれて з が ж に交替しています。
単一型の最上級は、基本的には「きわめて~な」のような絶対最上級の意味を表しますが、「~で、~の中で」のように比較の対象が明確にされる場合は、「~の中で最も~な」のような相対最上級の意味になります。
比較級 + всего / всех(比較型)
形容詞や副詞の比較級(単一型)に всего や всех を組み合わせて、最上級の意味を表す方法があります。
単一型の比較級は、形容詞や副詞の語尾を -ее / -е に変化させて作られた比較級です。
また、всего や всех は、定代名詞 весь「すべての~」が生格形に変化したもので、всего は中性生格形、всех は複数生格形です。весь の中性形は「すべての物」、複数形は「すべての人」を表す使い方があります。
比較級(単一型)のあとに置かれた生格形の名詞や代名詞は、比較の対象「~より」を表します。
ですから「比較級(単一型)+ всего / всех」で「すべての物・人より~な」という意味になるので、「最も~な」という最上級の意味を表すことになります。
名詞的に使われた весь の中性形や複数形を比較の対象とするときには、それが物であれば всего を、人であれば всех を使うことになります。
これらの例文は、всего を「すべての物」、всех を「すべての人」と考えて解釈できます。
しかし、всех がいつも「人」を表すとは限りません。
この文では、主語の「この劇場」を「すべての人」と比較しているのではないことは明らかです。「モスクワの全ての劇場」と比較しているのです。ですからこの文は、次のように言うこともできます。
この場合の всех は、名詞的に使われた「すべての人」の生格形ではありません。形容詞的に使われた все театры「すべての劇場」の生格形 всех театров です。そして、わざわざ言わなくても分かるので театров が省略されています。
このように、抽象的に「すべてのもの」と比較するのではなく、より具体的に「すべての○○」と比較する場合には、比較の対象が「物」であっても всех が使われます。
-ший(特殊型)
形容詞の語幹に -ший を付けた形は、本来は比較の意味を表す比較級です。
しかし、その中でも хороший の比較級 лучший と、плохой の比較級 худший はそれぞれ、「より良い」、「より悪い」という比較級の意味のほかに、「最良の」、「最悪の」という最上級の意味でも使われます。
また、высокий から作られる высший と、низкий から作られる низший はそれぞれ、「より高い」、「より低い」ではなく、「最高の」、「最低の」という最上級の意味で使うのがふつうです。
原級 | 比較級 / 最上級 | 意味 |
---|---|---|
хороший | лучший | より良い、最良の |
плохой | худший | より悪い、最悪の |
высокий | высший | 最高の |
низкий | низший | 最低の |
これらは、最上級の意味を持つ特殊な形容詞と覚えるとよいでしょう。
最上級の表現
最上級に関係する表現をいくつか説明します。
比較の対象や範囲
из + 生格
最上級を使った文で、「~の中で」のように比較する対象を表すには、ふつう「前置詞 из + 生格」を使います。
複数の物や人を比べる対象とするので、из のあとの名詞は複数生格形になります。
また、「前置詞 среди + 生格」や「前置詞 между + 造格」でも、「前置詞 из + 生格」と同じような意味を表すことができます。
в + 前置格
「世界で最も~な」の「世界で」のように、比較する対象の範囲を表すには「前置詞 в + 前置格」という場所を表す表現を使うことが多いです。
最も~なひとつ
「один из + 形容詞最上級 + 名詞」で、「最も~な○○の中の一つ、一人」という意味を表します。
один は個数詞の「1」で、ここでは「一つ、一人」という意味で使われます。文中の役割に応じて形を変えます。
参考として、один の変化を次に挙げておきます。
単数 | 複数 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 中性 | 女性 | ||
主格 | один | одно | одна | одни |
対格 | 不活動体 = 主格 活動体 = 生格 |
= 主格 | одну | 不活動体 = 主格 活動体 = 生格 |
生格 | одного | одной | одних | |
前置格 | одном | одной | одних | |
与格 | одному | одной | одним | |
造格 | одним | одной | опними |
из は「~から」という意味が基本の前置詞で、ここでは「~の中で」の意味で使われています。そのあとにおかれる名詞は生格形になります。ここでは、「複数の物や人の中で最も~な」という意味ですから、形容詞の最上級も名詞も複数生格形です。
2つめの文では、主語の Анна にあわせて、один が одна のように女性形に変化していることに注意してください。
まとめ
ロシア語の形容詞や副詞の最上級について説明しました。
最上級は、самый + 原級(合成型1)、наиболее + 原級(合成型2)、-ейший / -айший(単一形)、比較級 + всего / всех(比較型)、-ший(特殊型)に分けることができます。
このうち、話しことばでよく使われるのは、самый + 原級(合成型1)と、比較級 + всего / всех(比較型)です。
用法 | 語尾 | |||
---|---|---|---|---|
修飾的 | 述語的 | 副詞的 | ||
самый + 原級 | ○ | ○ | ✕ | 長語尾 |
比較級 + всего / всех | ✕ | ○ | ○ | 無変化 |
ですから、これらの表現を優先的に学ぶのがよいでしょう。
形容詞自体の形は原級や比較級で、最上級に特有の形は出てきません。この意味で、形容詞や副詞を単一型の比較級(-ее / -е)に簡単に変化できるようになることが重要です。
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